秀樹杉松

祖父と孫、禾と木、松と杉

内田康夫の小説

 私にとって読書は文字どおり日常茶飯事である。毎日食べて本を読む。本が好きと言うより、他にすることがないからに過ぎない。どうしても新刊書を読む必要がある場合はともかく、図書館からの借り出しが多い。公共図書館は予約や取り寄せもできるので、本を読む人にはありがたい存在で、いつもお世話になっている。

 

 たまには難しい本も確かに読むが、今では時代小説や推理小説がメイン。かつては松本清張の大ファンで、清張全集を完読した。その後は、森村誠一佐伯泰英内田康夫高橋克彦鈴木英治などの小説を愛読している。

 ごく最近、高田大介『図書館の魔女』(文庫本1~4巻)と『図書館の魔女 烏の伝言』(文庫本上下巻)を読んだ。最初がむづかしく何回か中断したが、ついに読み切った。続いて、阿部智里の八咫烏シリーズ『烏に単は似合わない』『烏は主人を選ばない』『黄金の烏』を読んだ。ちょっと変わった感じの小説なのでネットで調べたら、いずれも「ファンタジー小説」というそうだ。

  ファンタジー小説」と言う言葉を聞いたのと、この種の小説を読んだのは今回が初めてである。いつもお世話になっている「図書館」、“啼かない日はない”と言われる「烏」。この二つの書名に惹かれて(どんな小説か全く知らずに)買い求めて読んだが、読んでよかったと感動している。調べたら、高田大介『図書館の魔女』は第45回メフィスト賞、阿部智里『烏に単は似合わない』は第19回松本清張賞の受賞作品とある。なるほどと納得。なお、阿部さんは弱冠20歳(早大生)での受賞の由。高田大介氏も早大卒とあるから、「早稲田文壇」は健在なようです。

 

内田康夫の小説> 

 内田康夫の小説は、全部で150冊を超える。それを全部読んでしまったのだから、自分でも驚いている。内田小説については、『Atelier秀樹ノート』で70回にわたって取り上げた。その中から、四つ引用します。

何故これほど、内田康夫の小説を取り上げたのか

 「内田康夫の小説」シリーズは、合計70号に達した。何故かくも熱心に集中して「内田康夫の小説」をノートしたのか、自問自答してみたい。

 内田康夫の小説は「気軽に読めて面白く為になる」。これが全てである。いわゆる“エロ”“グロ”が無く、「旅+歴史+事件」である。事件と言っても、筆者(Atelier秀樹)には添え物にしか見えない。「事件」を借りて実は「人間と社会」を描いている。究極的には「自然と人間」を謳歌したロマン小説、だと筆者は認定して惚れ込んでいる。嘗て読みまくった松本清張以来かな?

 70号にわたって取り上げたが、小説そのものの作品論、読書感想などはとても手に負えないので、ほとんどは巻末の「解説」などのメモに終始した。内田小説の大きな特徴は、作者自身による「自作解説」にある。初期の頃は奥さん(女流作家)の手になる解説もあった。もちろん、文芸評論家や他の作家による解説もあるが、何と言っても圧巻は内田自身の「自作解説」である。

 自作解説には、その作品の背景・ネライ・取材状況などだけでなく、作者自身の近況・心境も縦横に綴られている。小説の舞台となった各地方の地理・歴史をふんだんに使い、旅行の楽しさを謳いあげている。まさに、面白くて為になる。何回も書いたように、旅行しない(できない?)筆者(私)は、内田の小説を読みながら地図帳を広げて、旅行した気分に浸っている。行ったことのない地方の風景・風俗・伝説などは新鮮で、筆者の頭と心にストレートに入ってくる。

 名探偵・名刑事による推理小説が主流だが、浅見光彦」というルポライターが主人公になっているのも大きな特徴である。まさにフリーな「居候」の素人探偵が、地元警察、事件の関係者と一緒に事件解決に当たる。素敵な女性との出逢い、共同行動も魅力的だ。浅見は女性に優しいのか、女性は苦手なのか、どっちにせよ、女性の心を捉えるようだ。兄が警察庁刑事局との設定は異色で楽しい。厳しい母親、浅見に妙に気を遣う?お手伝いさんの存在も面白い。

         (Atelier秀樹ノート第24巻 No.1189 /2015.9.1)

             

内田康夫氏が脳梗塞で入院

 ヤフーニュースを見て驚いた。作家の内田康夫さん(80)が、軽い脳梗塞で入院中であるという。小説「孤道」を連載中の毎日新聞が8月5日付夕刊で、病状と連載終了を公表したそうである。

 それによると、内田氏は7月26日に軽度の脳梗塞を起こし、病院に入院し現在も治療中という。「弧道」の連載は今年12月までの予定だったが、今月12日で終る。「連載が続けられなくて申し訳ありません。症状は軽いので心配しないで下さい」との内田さんのコメントも掲載。『弧道』の新聞連載はやめるが、今後書き下ろしで刊行する意向を示している由。

  幸い症状は軽いということなので、『弧道』の書きおろし刊行を期待したい。また、 名探偵「浅見光彦」を結婚させたいとの考えを表明されているので、「浅見光彦結婚事件」の執筆?も予想したい。

 猛暑の連続で毎日が大変だ。入院治療で心身のリフレッシュを果たし、元気な復帰を願うのみである。

       (Atelier秀樹ノート 第23巻 <号外> /2015.8.7)

 

内田康夫さんが休筆宣言 未完の小説、完結編は公募で

  浅見光彦シリーズ」などで知られる作家、内田康夫さん(82)が、休筆宣言をした。2015年夏に脳梗塞(こうそく)に倒れ、小説執筆が難しくなったという。同シリーズとして毎日新聞夕刊に連載中に中断していた小説「孤道」は未完のまま刊行する一方、続編を公募して完結させることになった。

 毎日新聞出版によると、シリーズの累計発行部数は約9600万部。その114冊目となる「孤道」は、2014年12月に連載が始まった。和歌山・熊野古道の石像「牛馬童子」の首が切られて頭部が持ち去られ、地元の不動産会社社長が殺害された事件で、ルポライターの浅見が捜査に協力するストーリー。謎が提示され、これから解決という段階で、内田さんは左半身にマヒが残り、書き続けることが難しくなった

 「完結編」の募集は、本が発売される5月12日から来年4月末日まで。プロアマを問わず、400字詰め原稿用紙で350~500枚。最優秀作は講談社文庫から出版される。

 軽井沢在住の内田さんは「僕が休筆すると聞いて、浅見光彦は『これで軽井沢のセンセに、あることないことを書かれなくてすむ』と思うことでしょう。でも、どなたかが僕の代わりに、浅見を事件の終息へと導いてください」「完結編を書けないことが、返す返すも残念ですが、後続の英才に期待します」とコメントしている。 

朝日新聞デジタル 2017,3,21)    (秀樹杉松 67巻/2074号/ 2017/5/27) 

 

ここまでお読みくださった方々へ - あとがきにかえて 内 田 康 夫

 『孤道』毎日新聞の連載小説でしたが、中途のまま休載を余儀なくされた作品です。心苦しくも休載に踏切らざるを得なかったのは、僕の病気のためでした。2015年夏、僕は脳梗塞に倒れ、左半身に麻痺が残りました。以後リハビリに励みましたが思うようにはいかず、現在のところ小説を書き続けることが難しくなりました。本書を手に取ってくださった方々には、深くお詫びを申し上げます。

 でも、僕は、小説を諦めたわけではありません。いずれは……と、強い思いは勿論残っております。『孤道』を発表したい、しかし今の僕にこの続きは……と思いついたのが、未だ世に出られずにいる才能ある方に完結させてもらうということでした。思えば僕が作家デビューしたのも、思いがけないきっかけでした。1980年、当時の仕事の営業用に自費出版した『死者の木霊』が、ひょんな事で評論家の目に止まったのでした。そういうこともあり、世に眠っている才能の後押しができれば……と。

 嬉しいことに毎日新聞出版講談社内田康夫財団が<『孤道』完結プロジェクト>を立ち上げてくれました。本書の最後に募集要領があります。また、このあと『孤道』に対する思いを記しておきます。僕が休筆すると聞いて、浅見光彦は「これで軽井沢のセンセに、あることないことを書かれなくて済む」と思うことでしょう。でも、どなたかが僕の代わりに浅見を事件の終息へと導いてください。

 さて、では僕が『孤道』で何を考えていたかです。(略)この作品の発想のきっかけになったのは、牛馬童子頭部盗難事件です。牛馬童子和歌山県田辺市にある熊野古道の観光名所の一つ。2008年6月におきたこの事件を毎日新聞社の担当記者から提案されました。頭部は事件から2年後、同市のバス停で見つかっています。僕にはすでに舞台を同じくする熊野古道殺人事件』(1991年)がありますが、なぜ頭部は持ち去られ、また戻って来たのか。これはいけると思い、再度舞台にすることにしたのです。(略)

 僕の作家生活最大の傑作になるのではないかとも考えていただけに残念です。つくづく完結させたかったです。(略)読者諸氏は続きを想像するに、これに則るも、外れるも自由。完結編を書こうという方も同様、自由に発想していただきたい。いつの日か、「孤道』が完結して世に送り出されんことを夢見ながら、ご挨拶といたします。

  (『孤道』あとがき より)   (秀樹杉松 67巻/2075号/2017/5/27)

                           (ブログ「秀樹杉松」82-2362)