秀樹杉松

祖父と孫、禾と木、松と杉

作曲家の寿夭 (長寿と夭折 )

 作曲家には極端な寿夭(長寿と夭折)がみられる。天才とうたわれ、若い才能を発揮したが、病や貧困のため無念の夭折(注)に泣いた作曲家がいる。一方で70代、80代まで生きた長寿作曲家もいる。いずれにせよ、現在まで作品が残って愛好されている作曲家は、どなたも天才と言って良いだろう。

 (注)紛らわしいことに、「夭折(ようせつ)」と「夭逝(ようせい)」は同じ意味で、若死に、早死にのことだ。以前小生が「夭折」を使ったら、「夭逝」の間違いと受け取られた時は、少々悔しかった。また「夭死」、「早世」ともいう。年若くして亡くなるのは悲しいことなので、直接的でない表現が使われるのだろう。だから、「早死」とせずに「早世」としたり、「死去」「死亡」を「逝去」、「急死」を「急逝」などとする。

 

 <早世の作曲家>

 “美人薄命”とかいわれるが、夭逝した天才作曲家が少なくない。最初作った上記のリストでは、31歳で夭死したシューベルトをトップに据えた。

 <20代>

 その後20代がいないか調べ、西洋音楽黎明期の代表的音楽家の一人・瀧廉太郎(1879-1903)がいることを知った。「」(詞:武島羽衣)、「荒城の月」(詞:土井晩翠)が余りに有名で素晴らしい。留学先のドイツで結核に罹病、故郷に帰って23歳(満では24歳)の若さで病死した。「乙女の祈り」で愛されるパダジェフスカは、27歳で夭死していることも知った。

 <30代>

 さて、30代で夭折した作曲家9人は、錚々たる天才作曲家で占められている。即ち、シューベルト(31)、モーツァルト(35)、メンデルスゾーン(38)、ショパン(39)の4人である。ウエーバー(40)が亡くなったのも、満で数えれば39歳の時である。古典派のモーツァルトを除き、4人はロマン派に属し、若さと才能を惜しまれつつ、この世に別れを告げた。作品名は繰り返さないが、誰にも愛される名曲を我々に残してくれた彼らの名前や名曲抜きに、クラシック音楽は語られない

 <40代>

 40代で死去した作曲家8人の中に、シューマン(46)の名前が見える。前項の4人にシューマンを加えれば、ロマン派が勢揃いしたことになる。つまり、早世した5人の作曲がロマン派に属することが分かる。余りにも若くして昇天した“ロマンの星”の輝きは、世界の人々に希望と勇気を与え続け、クラシック愛好者の永遠の憧れとなっている。

 <50代>

 50代まで生きた作曲家群11名の中に、マーラー(51)、チャイコフスキー(53)、ベートーヴェン(57)が含まれる。この3巨匠は作品の素晴らしさから当然だが、50代という年齢がもたらす安定感も覚える。50歳代は今なら中年だが、当時は長生きに入るだろ。ベートーヴェン没後184年、チャイコフスキー没後118年、マーラー没後100年を経過した。巨匠3人の名曲が今日も広く深く愛好されている。50代での死は、志半ばであったことは間違いない。だが、わずか30歳代で無念の死を遂げた人もいる。立派な大作をいっぱい残してくれた3つの“巨星”は、いつまでも地球を照らし続けるであろう

 さてこれまで既に、ロマン派5人を含む10人近くを登場させた。クラシックの主要メンバーは出尽くした感がないでもないが、どうしてどうして、60歳以上長生きした大作曲家たちがいることを見逃してはならない。

 

 <長寿の作家>

 古い時代の作曲家なので、本稿では、便宜60歳以上を長寿として扱う。

 <60代>

 60代まで生きた作曲家を20人挙げた中に、スメタナ(60)、ラヴェル(62)、ヴィヴァルディ(63)、ドヴォジャーク(63)、ブラームス(64)、バッハ(65)、ベルリオーズ(66)、武満徹(66)らが含まれる。まさに錚々たる面々である。バッハは、今から325年前に生まれているので、65歳没はスゴイ長生きであった。さすがに“音楽の父”といわれるだけに、65年の生涯に相応しい堂々たる名作を残した。小生は、「マタイ受難曲」「クリスマス・オラトリオ」、オルガン曲が特に大好きだ。ところが驚くなかれ、同年生まれのヘンデルは、9年多い74歳の長寿を見せた。(次項)

 <70代>

 70代が25人(22%)で一番多くワーグナー(70)、ラフマニノフ(70)、ブルックナー(72)、ヘンデル(74)、ヨハン・シュトラウス(74)、リスト(75)、ハイドン(77)、アルビノーニ(79)、山田耕筰(79)らである。押しも押されもせぬ豪華メンバーであり、老いてますます盛んという感じがする。

 <80代>

 80代まで元気だった作曲家もいる。R.シュトラウス(85)、サン=サーンス(86)、ヴェルディ(88)、ストラヴィンスキー(89)など、第一級の作曲家が名を連ねる。

 <90代>

 驚くべきことに90歳を超える大長寿を果たした作曲家もいる。フィンランド出身の国民主義音楽の雄シベリウス(92)である。因みに名曲中の名曲「交響曲第2番」は37歳、交響詩フィンランディア」は44歳の若さで作曲している。最長寿者は現代作曲家のモンポウ(94)(1987年没)で、小生のCDコレクションにピア曲集1枚が収められている。(「クラシック音楽への憧れ」)

                                   (秀樹杉松  82-2376)