秀樹杉松

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『東京「スリバチ」地形散歩』(皆川典久著)を読む。〜素晴らしい本に出会いました。分かりやすくて、しかも専門的。見やすい写真・地図もたっぷりです!

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    著者皆川典久(東京スリバチ学会会長)

    書名:凹凸を楽しむ 東京「スリバチ」地形散歩

                  洋泉社 2012年2月15日初版、2017年6月2日第7刷発行

 

 一風変わった面白い書名だが、私には身近に感じられる本です。「なるほど、その通り」と共感共鳴できることが多い。素晴らしい本に出会いました。「東京スリバチ学会」にふさわしい、学術的にも豊富な内容です。全ページに、見やすい写真と地図が満載です。

 なぜこれほど褒めるかというと、私には川歩き坂めぐりの経験があるからです。(両方とも本ブログ『秀樹杉松』に投稿)。つまり、川歩きと坂めぐりの経験者として、私なりに東京の地形を知っており、大雑把に言えば下町は川、山手は坂と言ってもいいでしょう。地形には100%平坦は少なく、必ずと言っていいほど高低差があり、当然坂道が生まれ、が流れることになります。この本は、単なる坂道としてではなく、凹凸のあるスリバチ状の窪地と捉え、「スリバチ」と命名したのは、さすがだと思います。書名にも「凹凸を楽しむ」が冠称されている。/ Atelier秀樹

 

「はじめに」(p.3-5)

→「勤務先のある港区は坂が多いことは知っていた。坂の多くは下りては上る向かい合う坂、すなわちで、しかもそれらの谷のかたちはV字ではなくU字状で、ちょうどプリンをスプーンですくった時にできる窪みに似ている形状が新鮮だった」

 

 このクダリは私にはまさに“新鮮”そのもの。私が坂めぐりを始めたきっかけは、“坂道シリーズ”と称される「乃木坂46」と「欅坂46」に触発されて、港区の「乃木坂」と「六本木けやき坂」「鳥居坂」などの坂めぐりを始めました。最初は坂が多い(実際、坂学会の坂リストでも23区で一番坂が多い区)とされる港区だけのつもりでしたが、坂の魅力に取り憑かれて、いま現在62回出かけて577の坂をめぐりました。

 

 「はじめに」はさらに続く。

→「…東京の都心部山の手と呼ばれるエリアは起伏に富む。それは山と谷が織り成す山岳地帯のような地形ではなく、なだらかな台地と、その大地をえぐり取ったような窪地(谷)から成るものだ。谷は川による浸食作用で削られたもので、上流に遡るに従い「鹿の角」のように枝分かれし、谷の先端部(谷頭)は3方向を丘で囲まれたスリバチ状の谷間となっている場合が多い…」

 

→「大地の起伏には何らかの意味が隠されている。人知れず谷地や窪地が刻印されたフィールドが果てしなく広がる東京。谷を巡ることで砂漠のオアシス、あるいは樹海の泉を発見するような喜びを味わうことも可能だ。町の窪みに気づいたら足を一歩踏み入れることをお勧めしたい。山あり谷ありの東京スリバチ探索、目の前の丘を越えれば見知らぬ谷があなたを迎えてくれるのだから。…」

 

 内容の濃いこの本を紹介するのは容易ではない。断片的にですが、私が特に感心(関心)した本文の一端を記してみるにとどめたい。

 

全ての坂はスリバチに通ず(p.16-17)

 →「…東京も「水の都」と紹介されることもあるが、それは運河が張り巡らされていた城東の下町低地一帯を指した呼び名だ。東京の城西地区、山の手に着目すれば「坂の町」であるとともに、「谷の町」「谷の都」と言えるほどに谷が伏在している。…台地の上に発展した山の手は、その無数とも言える支谷を越える坂が多く、「全ての坂は谷(スリバチ)に通ず」と言っても決して過言ではない」

 

東京にも7つの丘がある(p.17)

→「…谷を刻んだ台地状の都市河川を北から順に、谷田川藍染川)・谷端川(小石川)・神田川渋谷川目黒川立会川呑川とすれば、分断された丘は北から順に、上野台本郷台豊島台淀橋台目黒台荏原台久が原台となり、これらを「東京の7つの丘」と呼ぶことができよう。」

 

「谷」のつく地名(p.26)

→「東京の地名を眺めてみると「谷」のつくものが実に多いことに気づく。例えば山手線内だけでも、渋谷、四谷を代表に、千駄ヶ谷、市ヶ谷、茗荷谷、神谷町・谷中・雑司ヶ谷など、旧町名で谷町と称する町が、麻布、赤坂、麹町などにあった。」

 「山手線の外側に目を向けても、富ヶ谷、幡ヶ谷、碑文谷、祖師谷、雪谷、阿佐ヶ谷、世田谷など、「谷」を含む地名は武蔵野台地に散らばっている。」

 

「窪(久保)」「沢」「池」が含まれる地名

→「ストレートに「谷」の付く以外でも、「窪(久保)」「沢」「池」が含まれている場合、そこには盆地や谷地形であることが多い。(大久保、下北沢、池袋、池尻

 

スリバチコード (p.27)

 「こうした谷の存在を示唆するような地名を「スリバチコード」と自分たちは呼んでいるが、これは現代の地図はもちろん、過去の地図から谷や窪地を見つける有力な手がかりとなる。」

 

「田」は低地、湿地を示す記号

 「ちなみに、スリバチコードの他に、「田」は低地・湿地を示す記号である。千代田、宝田、祝田をはじめ、神田、桜田、早稲田、三田、蒲田、羽田が該当する。これは都市に発展する以前は水田が広がっていたエリアなのだ。」

 

<おわりに>「書を捨てて谷に出よう」(p.294-295)

 「…本書が出版に至ったのは、地形の起伏をわかりやすく表現し、スリバチの魅力を十二分に紹介することができる特製の都市地図スリバ地図)が実現できたことに拠る。」

 「もし本書を読んで近所の坂が気になりだしたら、まずは冒険気分で散歩に出かけられることをお勧めしたい。どんな町の窪みも、きっと大海原へと続いているはずなのだ。書を捨て町へ出よう。一生かけても回りきれないほどの谷が待っている。」

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     『秀樹杉松』95巻2639号 2018-7-27 / hideki-sansho.hatenablog.com #279

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