秀樹杉松

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<坂研究>まねごと~『江戸の坂 東京の坂』(横関英一著)を読む~(17)乞食坂

 

 横関英一『江戸の坂 東京の坂』の今日の読書メモは、(17) 乞食坂(こじきざか)です。おそらく昔は坂の本名としての乞食坂もあったかもしれないが、名前が名前だけに、今では坂の別名として残っています。 / Atelier秀樹

 

 乞食坂という坂がある。昔からよく知られている乞食坂では、日暮里の御殿坂(ごてんざか)、牛込岩戸町の袖摺坂(そですりざか)、四谷南寺町の闇坂(くらやみざか)雑司ヶ谷小篠坂(こざさざか) の 四つである。

 乞食坂という坂は、必ず寺院の多い場所で、その横丁とか裏道とかにある。今日でもそうだが、昔は、ことに寺院の門前は乞食の稼ぎ場所であった。しかも、昔は縁日というものがあって、毎日どこかの神社仏閣の縁日であったはずである。特に盛った神仏というものがあって、一年中参詣者が絶えなかったのである。

 そうしたところに近く乞食坂があった、というのも意味のないことではない。老若男女の群集するところは、いつも乞食の稼ぎ場所であった。こうした盛り場へ出かけてゆく乞食の通路であり、乞食の休息場所でもあった。乞食坂はいつも寂しいところで、人の往来が少なく、そこへ行くといつでも、乞食の一人や二人は必ずうずくまっているような坂であった。

 

(1) 御殿坂(別名:乞食坂

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        第26回秀樹杉松坂めぐり(2018.2.6 / 写真:Atelier秀樹)

 国電日暮里駅の近くに、本行寺という寺がある。この前の坂が乞食坂である。昔は、少なくとも東北線国電山手線などのレールが敷設されない頃は、もっと長い急な坂であったはずで、駅やレールができて、半分ばかり坂が断ち切られてしまった形をしている。昔はこの坂の下の方に、乞食小屋があった。この坂を上ると、江戸末期に最も繁盛した遊山場所であり、また仏閣の多い「日暮の里」と呼ぶ所に出られた。(略)

 こうした盛り場と乞食小屋とを繋ぐところの坂を、乞食坂と呼んだのは当然である。この坂の本名は御殿坂であった。

 

(2) 袖摺坂(別名:南部坂、乞食坂

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       第88回秀樹杉松坂めぐり(2018.10.5 / 写真:Atelier秀樹)

 牛込岩戸町にも乞食坂があった。本名は袖摺坂である。肴町から若松町の方へ行く大通りの横丁の坂で、岩戸町から南へ、北町と袋町との間へ上る坂であった。(現、横寺町と箪笥町との境)幅一間に足りない狭い坂だが、古い形ばかりの低い段のある坂で、坂の西側に大きな榎があって、薄暗い坂の感じであった。(しかしこれは戦前のことで、今日では坂路が大改修されて、昔の乞食坂の面影はなくなってしまった)

 寺町の間にあって、しかも寂しい横町の坂であったので、この坂は夜も昼も乞食の休息場所となっていった。

 

 四谷南寺町(編注:今の須賀町)の乞食坂も、雑司ヶ谷護国寺裏門のところの乞食坂も、同じように付近に寺院が多く、また人々の遊山場所があって、この坂を通るといつも一人二人の乞食が、うずくまって休んでいたものである。

 

(3) 闇坂(別名:乞食坂、茶の木坂)

           四谷南寺町(現、須賀町)の乞食坂

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                    第83回秀樹杉松坂めぐり(2018.9.25 / 写真:Atelier秀樹)

    

(4) 小篠坂(別名:小笹坂、乞食坂

   雑司が谷(現、雑司が谷1丁目と大塚5丁目の境)の乞食坂

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                      第95回秀樹杉松坂めぐり(2018.10.19 / 写真:Atelier秀樹)

 

『秀樹杉松』102巻2768号 2019-1-5/hideki-sansho.hatenablog.com #408