全国各地に40以上もある「うとう坂」。その「うとう」の漢字名が20通り以上あるという、不思議な話です。 / Atelier秀樹
近畿以東には「うとう坂」と呼ぶ坂が40もあるが、それらと同じような意味を持った「うとう坂」は、東京にはいくつもない。せいぜい三つぐらいであろうか。
(1) 宇都布坂(北区の地蔵坂の古名)
(2) 歌坂(新宿区)
(3) 謡坂(目黒区)
これらに共通した点は、かつて坂下に川があったということ、今でも川や橋があること、その坂が岡の終わりで、平地へ突き出ていること、この三つである。
「うとう坂」は特に日本の北半分に多いが、ほとんど全国的に散在する坂だと言ってよい。東京に少なく、地方に多い坂である。読み方は「うとう」「おとう」であっても、その当て字の多いのは驚く。
→ 烏頭、善知鳥(うとう)、鵜頭、宇都布、鵜取、有東、有動、有度、兎渡、羽渡、ウト、宇戸、宇土、宇道、宇頭、宇当、宇通、謡(うとう)、歌、唄、雅楽、ウツ、御塔(おとう)、尾頭、オト、…。
「うとう」と発音するものと、「おとう」と発音するものとがある。それを省略的に呼んで、うた坂(歌坂)、おと坂などとなったものもある。謡坂と書いて、うたい坂ではなく、うとう坂と呼んでいる。うとう坂にこんなに当て字があるということは、うとう坂の本当の意味が忘れ去られてしまったからだと思う。
宝井馬琴と高田与清の一致しているところは「出崎」ということである。すなわち地形である。馬琴は「海浜の出崎」と「鳥の口ばし」であるとし、与清は「山の出崎」と「烏の頭」の形がうとうであるとしている。(略)とにかく、
「うとう」とは「烏頭」であって、善知鳥(うとう)の「くちばし」に似たような地形、すなわち、山や海浜の出崎を言ったのであろう。
<編注>
善知鳥(うとう)=ウミスズメ科の海鳥。くちばしは橙色で、繁殖期には上部に突起が生じる。(コトババンクkotobabannk.jp)
実際の「うとう坂」をいくつか取り上げて検討してみよう。
東京の「うとう坂」
(1) 宇都布坂(うとうざか) (北区王子本町1丁目王子神社の西方、旧日光街道
の地蔵坂の古称)
まず、東京の北区王子本町1丁目、王子神社裏の「宇都布坂」(うとうざか)はどうであろう。この「うとう坂」は、十条の台地から、旧日光御成道を王子神社裏へ下って行く坂で、たしかに「山の出崎」は、ふもとを流れる音無川(おとなしがわ)のところで、荒川右岸の平野地へ突き出ている出崎という感じである。
第32回秀樹杉松坂めぐり(2018.3.10 / 写真:Atelier秀樹)
(2) 歌坂 (うたさか) (新宿区市谷砂土原町3丁目と市谷田町2丁目の間)
東京の「うとう坂」からもう一つ採るとすると、新宿区市谷砂土原3丁目のところの「歌坂」(うたざか)であるが、これは、神楽坂上の台地、砂土原3丁目と田町2丁目境を、「山の出崎」となって、坂下の「うなぎ坂通り」まで下る坂である。これもたしかに、今でも「うとう」形の坂の感じを残している。(略)
第11回秀樹杉松坂めぐり(2017.12.9 / 写真:Atelier秀樹)
(3) 謡坂(うたいざか) (目黒区上目黒4丁目、祐天寺駅の東北方)
第16回秀樹杉松坂めぐり(2017.12.18 / 写真:Atelier秀樹)
<編注>標識の「謡坂(うたいざか)」は、横関氏の説に従えば「謡坂(うとうざか)が正しいかも。
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このように「うとう坂」の見本をいろいろ見てくると、20以上もあろうという坂の当て字は、現在においてこれを考えたら、もっと内容的にピッタリする名前に統一することもできようが、昔からの名称をまず尊重しなければならないとすれば、
「烏頭坂」という当て字が、一番しっくりしているように思われる。
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『秀樹杉松』102巻2772号 2019-1-7/hideki-sansho.hatenablog.com #412