秀樹杉松

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<坂研究>まねごと~『江戸の坂 東京の坂』(横関英一著)を読む~(26)瓢箪坂(ひょうたんざか)

 

 今回は「瓢箪坂」(ひょうたんざか)です。なぜ瓢箪坂というのかについての、横関説面白いです。是非お読みください。

 東京には一つしか残っていないという瓢箪坂(新宿区神楽坂6丁目と白金町の境)には、3ヶ月半ぐらい前に「秀樹杉松坂めぐり」で行ってきましたので、その時撮影した写真を掲げます。もちろん再掲載となりますが、改めて見ると、坂めぐりの楽しさが思い出されます。 / Atelier秀樹

 

 江戸時代のひょうたん坂は、東京にはたった一つしか残っていない。そのためどういう理由でひょうたん坂といったのか、それがわからない。同じ名前の坂が少なくとも三つないと、その坂の名前の本当の意味は、しっかりとはつかみにくい。このひょうたん坂がその例である。その形が瓢箪の形をしている坂は、まずない。本当の地誌にも、瓢箪坂の説明をしているものがない。

 

 東京にただ一つの瓢箪坂は、新宿区神楽坂六丁目と白銀町との境を、南から来て西に上る坂である。確かにすんなりした坂ではない。坂みちがくねくね曲がっていて、坂は急坂ではないが、坂道に広いところと狭いところがあって、S字状に曲がっている。坂の頂上はの上で、崖の下は曲がって下りてきた坂のふもとになっている。だからここの崖に沿ってたてられた家屋は、坂上の路と二階の窓が同じ高さで、坂の下はご存知のように、家屋の一階が玄関になっていた。

 

 瓢箪のことを瓢(ひさご)ともいう。これらの字のついた地名を考えてみると、まず、瓢箪町、瓢箪池、瓢箪堀、瓢箪山、瓢箪島、瓢池、瓢潟などいろいろある。池だとか、湖だとか、山だの岡だのが、瓢箪の形をしているというのは、ありうることで、これには問題はない。しかし、坂や道路が瓢箪の形をしているというのは、どんな形をいうのであろうか。「途中いったんくびれて、さらにも盛り上がっている形から瓢箪坂の名が起こった」と書いた人がもあるが、坂路がくびれていて、さらに盛り上がっている形」というのは、どんな形をいうのであろうか。

 

 昔は、子供の下駄に瓢箪の絵を描いたものを売っていた。「転ばずの下駄」と言った。瓢箪を体につけていると転ぶことがない、というおまじないからきていることで、子供が転ばないようにと、心をくばる親たちの思いやりからきたものである。小さな瓢箪を六つ腰にさげていると、六瓢(むひょう)といって、無病を意味し、決して病気にかからないというおまじないもある。江戸時代には、坂はよくよく転ぶものと思われていたようである。

 

 この転びやすい坂に、転ばないまじないの瓢箪という字をかぶせたら、さぞ安全な足場の良い坂になるのではないだろうか。そこで、足場の悪い転びやすい坂に、瓢箪坂と名付けたものとしたら、どんなものであろうか。瓢箪坂は、転びやすい坂が、転ばぬ坂というまじないを込めた坂の名となったのである。転ばないようにと、けわしい坂みちに、その安全を祈って瓢箪という名をつけたのではないだろうか。

 

 この瓢箪坂と同じような坂に、念仏坂というのがある。険しい急坂を、ことに雨後の滑りやすいときに、上ったり下ったりする場合、思わず「なみあむだぶつ、なみあみだぶつ」と声が出てしまう。念仏坂と同じ気持ちの坂が、この瓢箪坂の名前である。瓢箪という名を坂につけたときの気持ちは、その坂を上下するすべての人々が、皆安全であるように、転んで怪我をしないようにと、祈る気持ちの現れであるということは、両方とも同じでなのある。坂に関する限り、瓢箪の意味は決して形ではなく、その心ではないだろうか。

 

 念仏坂のように、危険を自分自身の念仏によって、個人個人が仏に祈るのと違って、瓢箪坂の方は、転ばずの下駄と同様、そこを通るもののすべての人のために、人が通る以前に、その坂に瓢箪坂という名前を捧げて、祈りをすませているのである。だから瓢箪坂には、神の加護があるものと思っているのである。

 

瓢箪坂(ひょうたんざか)

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       第87回秀樹杉松坂めぐり(2018.10.3  写真:Atelier秀樹)

<編注>

 ◉因みに、坂学会の「坂のプロフィール」には、次のように書かれています。

 ↓

 瓢箪坂

 新宿区白銀町と神楽坂6丁目の間。白銀公園の南端から南東に向かう狭い道。坂の途中に、新宿区が設置した標識がある。

瓢箪坂 坂の途中がくびれているため、その形から瓢箪坂と呼ばれるのであろう。」

 由来 他:坂の途中がくびれている形から、この名で呼ばれた。(標識より)

 

 ◉横関氏は「坂の形(くびれ)からの瓢箪坂」説に疑問を呈していますが、新宿区の標識は反対にこの説を採用しています。坂学会も同様の見解のようです。

 坂学会会員の自分もこれに特に異論はありませんが、いま写真を見て思い出しました。確かに道路の「くびれ」はあります。ただ、その形から「瓢箪坂」なのかどうか、正直「よく分かりません」。いずれにせよ、横関説は面白く、傾聴に値することは確かでしょう。 

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『秀樹杉松』103巻2783号 2019-1-21/hideki-sansho.hatenablog.com #423