秀樹杉松

祖父と孫、禾と木、松と杉

和辻哲郎、谷崎潤一郎、菊池寛、芥川龍之介、、一高生たちを魅了する、白い化粧煉瓦の帝国図書館  ~ 中島京子『夢見る帝国図書館』を読み、感動しました (5)~

帝国図書館(現・国立国会図書館 国際子ども図書館」)<wikipediaより> 

 

中島京子『夢見る帝国図書館読書メモ、第5回です。前回紹介のように帝国図書館」は、明治39年に東側ブロックの建築だけで開館したが、当時では目を見張るような「威風堂々の古典主義様式の西洋建築」で、利用者が殺到したようです。まずは、一高生たちをごらんください。

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夢見る帝国図書館・8 

白い化粧煉瓦の帝国図書館、一高生たちを魅了する

 

和辻哲郎

姫路中学を卒業したばかりの和辻哲郎は、その月の終わり、第一高等学校に入学するために東京にやってきた。初めてきた東京で、哲郎を魅了したのは、故郷姫路ではその頃まだ見られなかった、大きな西洋建築だった。ニコライ堂の丸い屋根を見て、哲朗はため息をつき、こうした建築は、どのような風土を背景に建てられたのかなあと考えた。

 

そして、姫路にいたころに新聞で、その開館記事を目にしたことのある

上野の帝国図書館に足を運んだとき、その建ったばかりの美しい建物に心を奪われた。そこではただ建物を拝見して終わりということではなくて、ゆっくり落ち着いて、書物を眺めながら、そこを我が居場所として独占して過ごすことができるのに感激した。

 

哲郎がとりわけ好きだったのは、閲覧室の高い天井とシャンデリアだった。自分がシャンデリアの下に座って本を読んでいる。そう思うと、哲郎の胸はなんともいえない幸福に充たされるのだった。哲郎は、足しげく図書館に通うことになった。

隣に座った一高の後輩に、声をひそめて話しかけると、哲郎は鼻をクンクンさせて、ワーズワースの詩集に押し当てた。「なんやら、香水みたいな、ええ匂いや。英国の栄華の匂いなんやろか」哲郎は静かに目をつぶった。

 

谷崎潤一郎

なあ、ジュンイチ。東京って。ええとこやなあ」。そう和辻哲郎は言い、日本橋蠣殻町生まれの谷崎潤一郎は、まんざらでもない笑みを漏らした。

 

菊池寛

高松中学を卒業して東京に出てきた菊池寛も、着京の翌日には、このルネッサンス様式の美しい図書館に行った。寛は歴史小説が好きだったので、高松時代に上巻しか手にすることのできなかった春廼舎朧(はるのやおぼろ)の『女武者』を見つけて大喜びで借り出して読んでみたが、さほど感心はしなかった。それでも図書館は気に入って日参した。

 

<佐野文夫>

いくつかの学校を転々とした末に、は一高に入学して和辻・谷崎の後輩となったが、とりわけ仲良くなったのは佐野文夫で、結局、佐野が盗んだマントを質入れしようとした事件の罪をかぶって退学になってしまった。佐野がちょっと困ったちゃんであったことは、こうして寛も知らないわけではなかったのに、マント事件でも身を挺してかばってしまったところをみると、寛にとって佐野はその困ったところも含めて魅力的な男だったに違いない。

 

芥川龍之介

一高時代の寛の友だちといえば、やはりよく知られているのは佐野文夫よりも、だんぜん芥川龍之介である。京橋生まれ、本所育ちの龍之介は、府立三中(今の都立両国高校)時代から帝国図書館には通っていたが、浴びるように本を読み博覧強記を自慢する威勢のよさは、高松から出てきた四角い顔の友人[菊池寛]に任せることにしていた。

 

肩をいからせて図書館から出てくる本の虫のを呼び止めて、龍之介は言った。「なあ、寛。団子食ってかない?」「団子?」「すぐそこの東照宮の前に鶯団子って団子屋があるんだよ」

「知らない」四角い顔をした菊池寛は、団子と図書館になんの関係があるのかと言わんばかりに答えた。「言問団子より、鶯団子の方がうまいんだぜ」「寛は目を見開いた。「お前よく、そんなことを知ってるね」「女の子と話していると、いろいろ教えてくれるからね」

 

中島京子『夢見る帝国図書館』p.114-117から)

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『秀樹杉松』108巻2891号 2019.7.3 / hideki-sansho.hatenablog.com #531