しぐれ、霧、風、たそがれ、冬、橋、・・・ / Atelier秀樹
藤沢周平の小説を読んでます。読み進むごとに、心爽やかになる。時代小説の作家だから当然、怖い書名もある。前号に紹介した、小生が真っ先に読んだ「用心棒日月抄」シリーズの書名は、刺客・孤刀・凶刃などで、いかにも剣豪小説のようだが、実際はしがない・微笑ましい用心棒生活が描かれている。未読の方は是非お読みください。
時代小説が面白いと私が言うのは、多くは用心棒のような下級武士が主役で、当時の侍や庶民生活などが軽やかに描写されいるからです。藤沢周平の小説の書名には、季節感や自然現象が織り込まれているようなので、ネットで区立図書館の書誌データを使って調べました。その結果をまとめたのが、下記一覧です。なぜこんな事をしたかといえば、書名の中に作家の意図や作風が出ていると思ったからです。こんな事をする暇人はいないでしょうから、このまとめは私のオリジナリティでしょう。
私が一番に感じるのは「時雨(しぐれ)」です。藤沢周平作品は「しぐれ小説」と言ってもいいのではないでしょうか。現に、2001年放送のNHKテレビドラマ(11回シリーズ)「時代劇ロマン」のタイトルは「藤沢周平の人情しぐれ町」となっている。(「本所しぐれ物語」「驟り雨」の二つを基にしたドラマ)。藤沢作品には拙著「親川記」に書いた川や橋も頻繁に出てきます。実際の書名にも使われているが、藤沢小説はその限りでは「橋ものがたり」と言ってもいいでしょう。
◉ 藤沢周平小説の書名
<しぐれ> 時雨のあと、時雨みち、本所しぐれ町物語、蝉しぐれ、秋色しぐれ町
<雨> 小ぬか雨*、驟り雨、梅雨ぐもり、氷雨降る町で、氷雨降る、
<霧> 深い霧、漆黒の霧の中で、霧の果て、霧の夜、霧にひとり
<風> 風のひかり、吹く風は秋、風の果て
<雲> 雲奔る、鱗雲、赤い鱗雲、春の雲
<霜> 霜の朝
<春> 初つばめ、早春、梅咲く頃、春の雷、春浅くして、春の雲、早春の光、さくら花散る
<春秋> 春秋山伏記、春秋の檻
<秋> 吹く風は秋*、秋、秋色しぐれ町
<冬> 冬の日、冬の足音、冬の潮、冬の終わりに
<朝> 朝焼け、霜の朝、暁の光
<昼> 麦屋町昼下がり
<夕> 夕べの光、日暮れ竹河岸、三谷清左衛門残日録、赤い夕日
<たそがれ> たそがれ清兵衛、たそがれ長屋
<夜> 夜の城、夜の雷雨、夜が軋む、夜の橋、夜消える、朧月夜、暑い夜、霧の夜、夜に凍えて
<闇> 闇の穴、闇の傀儡師、闇の歯車、闇の椅子、闇の顔、闇うち
<橋> 橋ものがたり*、夜の橋、小さな橋で*、まぼろしの橋
<花> 花散る里、花のあと、さくら花散る
<色> 赤い夕日、溟い海、暗い鏡、黒い縄、赤い鱗雲
<果て> 霧の果て、風の果て
<海河> 溟い海、海鳴り、ささやく河
<檻> 人間の檻、春秋の檻、風雪の檻、愛憎の檻
*追伸 ネット情報で今初めて知りましたが、今年は藤沢周平の生誕90年、没後20年なそうです。そのためでしょうか、時代劇専門チャンネルが藤沢周平新ドラマシリーズ第二弾として、「橋ものがたり」から3編*を映像化し、第1作「小さな橋で」が先月9月に完成したそうです。第2作:小ぬか雨、第3作:吹く風は秋、はいつでしょうか?是非観たいですね。
こういうことは何も知らずに、私は藤沢作品を読み始めたわけですが、やはり何かしらの引力が働いたでしょうか?
(秀樹杉松 86巻/2455号)2017.10.15