秀樹杉松

祖父と孫、禾と木、松と杉

藤沢周平『三谷清左衛門残日録』

用人引退、隠居後の「新しい暮らしと習慣」  /  Atelier秀樹 

 NHKで見た記憶があるので調べたら、1993年の金曜時代劇「清左衛門残日録」であることがわかり、主演の清左衛門役:仲代達矢の好演を思い出した。原作は藤沢周平『三谷清左衛門残日録』。先日図書館から借り出した『藤沢周平全集』(文藝春秋)第二十一巻で原作を読み終えたところです。

 

 <主人公:三谷清左衛門>

 この小説の主人公三谷清左衛門の紹介は、向 敏氏の解説を引用します。

 → 家禄120万石の小納戸役から累進して最後には用人として君側に勤め、禄高も加増されて270万石になっていたが、藩主が代替わりをしたのをしおに職を辞し、ついでに家督も息子に譲って隠居した人物である。

 → 歳はまだ52だが、3年前に妻をなくしてから、隠居して悠々自適の晩年を送りたいと強く望んでいたのだという。それが、実際に隠居してみると勝手が違った。公私さまざまな難題がつぎつぎとこのなりたてのご隠居のもとに持ち込まれ、それを解くのが彼の「新しい暮らしと習慣」となった。

<15話からなる小説>

   この小説には以下の15話が収められており、もちろん主人公は三谷清左衛門である。

醜女、高札場、零落、白い顔、梅雨曇り、川の音、平八の汗、梅咲く頃、ならず者、草いきれ、霧の夜、夢、立会人、闇の談合、早春の光

   <作品の解説>

 これについて私の下手な感想より、解説の向 敏氏の文章を紹介したい。向氏は全集の解説を書くだけに、藤沢周平作品の解説は実に素晴らしいですね。

 → 死んだ先代の藩主が一夜の気まぐれで手をつけた女の始末、・・・、果ては、新藩主からの密命で藩の執政権争いの黒白をつける調査に一役買ったりすることになる。いずれも人間関係が複雑に絡まりあった、あるいは人間の欲望や妄執を秘めた難題だが、そこは歳の功というか、隠居の気楽さというか、清左衛門は慌てず騒がず解決のいとぐちをさぐり、あとにしこりを残さないように穏便に事を収めていく。飄然という形容が似合いそうなその言動に応じるかのように、描法にも角張ったところがないのはいうまでもないが、持ち込まれる難題自体のなかに何かしら剽げた話柄が織り込まれていて、これも藤沢周平ならではの工夫。・・・。

<早春の光>

 15話の締めくくり「早春の光」の文章の紹介で、本号の締めとします。

 → 今度は正面に、国境の遠い山山が見えている。小樽川の水源をなす南方の山塊からわかれる国境の連山は、東から北に、障壁のように空を斜めに区切っていた。そしてその奥に、今頃の季節には雲に隠れて滅多に姿を現さない弥勒岳の山頂が見えた。・・。

 ー 今日の日和のように……。

 藩もこのまま何事もなく済めばよいが、と清左衛門は思った。

 

                                                 (秀樹杉松 87巻/2463号)2017.10.22       #103