秀樹杉松

祖父と孫、禾と木、松と杉

葉室麟氏の逝去を悼み、作品を読む

遅ればせながら読んで、感動しています。 /  Atelier秀樹

 

 ◉葉室麟氏の訃報に接しました。1951年生まれなのでまだまだお若い。ご冥福をお祈りします。実は私は人並みに本は読んでいるつもりですが、恥ずかしながら、葉室氏の作品を1冊も読んでいませんでした。弔意を込めてネットで作家歴と作品を調べ、早速図書館から4冊を借り出して読み始めています。

  

 ◉借り出した4冊とは、『乾山晩愁』(デビュー作、2005歴史文学賞)、『銀漢の賦』(2007松本清張賞)、『いのちなりけり』(2009直木賞候補)、『蜩ノ記』(2012直木賞)。まだ2冊しか読んでいないが、どうしてこれまで読まなかったかと悔いるほど、いずれも名作である。私が今現在感じていることは、1)文章が格別に上手い、2)書名が極めて魅力的である、の2点です。

 

<島内景二氏の解説から>

銀漢の賦』(文春文庫) 巻末の、島内景二氏の「解説」から一部を引用します。

葉室麟必ずや文学史に、その名が大きく刻まれるに違いない逸材である。そして、第十四回・松本清張賞受賞作『銀漢の賦』も、長く読み継がれることだろう。何よりも文体が、比類なきまでに清冽である。人間の心は、悩みや苦しみさえも、こんなに高雅な文章で掬い上げることができるものなのか。(略)葉室の作品は、待望久しかった「大人の時代小説」である。それでいて、「青春の回想シーン」が、みずみずしいリリシズムを漂わせている。彼の作品は、遠くない未来に、「現代の古典」となるだろう。(以下略)

  ◉全面的な共感を覚える解説です。解説の島内景二氏の文章もまた、素晴らしいですね。

<美しい書名> 

 ◉私が「葉室作品の書名が魅力的」と書いたのは、以下に例示するように、書名だけでは作品の主題がわからず、しかも美しい題名だということです。ご覧ください。(作品発表順)

風渡る、いのちなりけり秋月記花や散るらん、柚子の咲く頃、橘花抄、恋しぐれ、星火瞬く、蜩ノ記、無双の花、霖雨、千鳥舞う、蛍草、おもかげ橋、春風伝、陽炎の門、月神、さわらびの譜、柚子の花咲く、潮なり、山桜記、川あかり、紫匂う、天の光、緋の天宮、風花帖、散り椿、峠しぐれ、春雷、春雪、草雲雀、はだれ雪、辛夷の花、海なり、秋霜、弧篷のひと、風のかたみ、潮騒はるか、、。

 

◉区立図書館網で『乾山晩愁』を調べようとして、検索したら「所蔵なし」と出た。そんな筈はないと3回繰り返したが、アクセスできない。よく見たら、私がアクセスしようとしていたのは『乾山晩秋』だったのです。最初に出たので「これだ!」と思い込んだのです。まさか「晩愁」だとは気が付きませんでした。

 手元の『新潮国語辞典』で「ばんしゅう」を引いても、「晩愁」は出てきません。前掲の美しい書名にも明らかなように、葉室氏の語彙は豊富ですね。

 

<美しい文章>

 ◉作品の書き出しを紹介します。

乾山晩愁 =デビュー作、歴史文学賞

 昨日までの雨がようやく上がって、抜けるような夏の青空が白雲の間にのぞいていた。庭の生垣の朝顔は昨夜の雨の名残で水滴を白く輝かせている。ツクツクボウシの鳴き声がうるさかった。

蜩ノ記直木賞

 山々に春霞が薄く棚引き、満開の山桜がはらはらと花びらを舞い散らせている。昨日まで降り続いた雨のせいか、道から見下ろす谷川の水量が多い。流れは速く、ところどころで白い飛沫が上がっている。昼下がりの陽光にくっきりと照らされた川辺の木々は瑞々しい葉を茂らせていた。その枝は、川面を覆うように伸び、深淵の影を水面に映し出している。

  

 ◉年末年始は「葉室麟」作品を読みまくるでしょう。あなたも如何ですか?  

 ◉本号(2521号)から 第90巻 が始まりました。

 

 (秀樹杉松 90巻2521号)17/12/27  #blog<hideki-sansho>161