葉室 麟『草雲雀』を読む。~ブログ『秀樹杉松』投稿200号記念に、名作をお届けします。
葉室 麟『草雲雀』(実業之日本社、2015)
「草雲雀(くさひばり)」という美しい書名にひかれて読もうとした。やっと「利用中」が解けて、図書館から借りだして読むことができた。
主人公は幼馴染の清吾と伊八郎。そして、伊八郎の父・清吾の妻。藩首脳の派閥争いに絡んで物語が進む。やはり、小説の内容に立ち入ることができないので、主な登場人物を紹介するにとどめたい。
そして、「草雲雀」というキーワードが出てくる、文章の一コマを引用することにしました。是非とも読みたい名作です。
なお、末尾に草雲雀の画像を載せました。子供の頃を思い出す方も多いのでは?
本号『秀樹杉松』91巻2560号は、ブログ投稿200号記念に相当します。/ Atelier秀樹
<栗屋清吾>
「姫野藩」馬廻り役・栗屋家の三男として生まれ、幼い頃から長兄や次兄に気兼ねして生きてきた。父・十郎左衛門の死後、長兄の嘉一郎が家督を継いでから、家族の目が厳しくなる。長兄の嘉一郎は学問に優れ、藩校では秀才として知られ、将来を嘱望されていた。
それに比べ清吾は、28歳になっても部屋住みの身の上で、養子話がくる年齢では既にない。このままいけば、生涯、長兄に面倒見てもらうしかなく、先では家督を継いだ甥の「厄介叔父」になる。若杉道場の師範代。
<山倉伊八郎>
清吾と同じ年の幼馴染み。勘定方・山倉平蔵の五男で、家計が苦しい山倉家は四苦八苦しながら伊八郎を育ててきた。幼い頃の伊八郎は餓鬼大将で、清吾などはよく泣かされた。長じても、放埓で酒を飲み、悪所にも出入りしているという噂。
清吾同様に養子の口が見つからず、若杉道場の師範代を務めて日々を過ごしていた。
<清吾の妻・みつ>
栗屋家の女中の「みつ」は百姓の娘で、おとなしくて控えめで気立てがよく、容貌も十人並みで、目元が涼しいのが清吾の好みであった。清吾と深い仲になり、二人は「結婚」したが、長兄は認めない。
<元家老・国前武左衛門>
国前家といえば家中きっての名門で、代々筆頭家老を務める家柄。中でも武左衛門は辣腕をもって知られ、藩主・大久保政真秀の覚えもめでたかったが、高齢を理由に隠居して久しい。
<急展開>
ところが、国前武左衛門の嫡男が病没して、事態は急激な展開を見せた。すなわち、武左衛門が「山倉平蔵の五男(伊八郎)はわしが妾に産ませた息子だ。その者を取り戻して国東家を継がせる」と言い出した。
つまり、山倉伊八郎は山倉家の実子ではなく、元家老の国前武左衛門が妾に産ませた子で、国前派で忠勤を励んでいた山倉の父が引き取り育ててきた、ことがわかったのである。
国東家を継いで家老を目指す伊八郎は、幼馴染の清吾に用心棒としての協力を依頼、自分が家老になったら清吾を「剣術指南役」にしてやると約束。ここから二人の共闘・二人三脚が始まる。さて、両人の運命は?
<草雲雀>(文章から)
りり、りり、りり と虫の鳴き声が聞こえてきた。可憐で悲しげな声だ。みつは竹籠を清吾の前に置いた。「なんだ、これはー」 清吾は竹籠の中を覗き込んだ。竹籠の中には草が敷かれ、黒い一匹の小さな虫がいるようだ。「草雲雀でございます」・・。「泣くのは雄なのだそうでございます。離れ離れの雌を恋い慕って泣くのだ、と村の年寄りが話しておりました。「そうか草雲雀は恋の歌を唄っておるのだな」・・・。
<小説の締めくくり>
みつは草雲雀を飼っていた。草雲雀は恋しい相手を思って一晩中、りり、りり、と泣くのだという。清吾は草雲雀の鳴き声が耳の中でするのを聞いた。りり、りり、りり (わたしもみつも草雲雀だ)清吾は、みつを背負う腕に力を込めると、草雲雀の鳴き声に合わせてしっかりと夜道を歩いて行った。(完)
<草雲雀>(ネット情報)
ネット検索すると多くの説明が出てくる。しかも若干の相違があるから不思議。分類もクサヒバリ科とコオロギ科。鳴き声は違って当然だが、フィリリリ、フィリリリリ、チリリ。面白いですね。何か調べるときは、広くあたるに限るようです。因みに、件の葉室麟の小説では り、り、り と表記されています。
◉直翅目クサヒバリ科の小型コオロギ。体色は淡黄褐色で黒褐色の点や帯紋がある。雄は昼間からフィリリリと高い声で鳴く。(kotobank.jp)
◉コオロギ科の昆虫。体は茶褐色で、長い触角をもっている。草の間にフィリリリリと澄んだ音色で鳴く。雲雀のように美しい声で鳴くので、草雲雀の名がある。(kigosai.jp)
◉クサヒバリ科のコオロギ。体長約7mmで、触角が長く約20mm。体は淡黄褐色で黒斑がある。成虫は7〜10月に現れ、雄はチリリと美しく鳴く。古来、鳴く虫の一つとして愛玩されてきた。(weblio.jp)
草雲雀(くさひばり)〜ネット「まとめ matome.naver.jp 」 より
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『秀樹杉松』91巻2560号 18/3/4 # blog<hideki-sansho>200
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