星 亮一著『斗南藩』(となみはん) ー「朝敵」会津藩士たちの苦難と再起ー を読む。〜もう一つの明治維新史〜
今放映中の大河ドラマは観たことがない。関心がないからではない。ブログのプロフィールにあるように、私(Atelier秀樹)は「東北出身」です。誰よりも戊辰戦争には強い関心を持ち、自分なりの確固とした考えを懐いているつもりです。何はともあれ、お読みください。
著者:星 亮一
1)この間テレビをみていたら、「維新三傑」といわれる西郷隆盛・大久保利通・桂小五郎の写真を示して、3人の知名度と人気を試すような街頭インタビューがやられていた。西郷、大久保、桂の順のようであった。桂小五郎はもちろん木戸孝允のことである。小学生の頃は「木戸孝允」と教えられた。
2)三日前にアップしたばかりの、<坂めぐり>63回:豊島区駒込の「木戸坂」は、坂上にあった木戸孝允の旧邸にちなんだ坂名である。近くの住民の人の話では、木戸孝允邸への明治天皇行幸は駒込のの誇りと思っているようだった。、
3)書店の新刊書コーナーで『斗南藩』(星亮一著)を発見したので、すぐ買って読んだ。「斗南藩」を知る人は多くはないだろう。本書の<はじめに>の冒頭にはこう書かれている。
→「斗南藩とは戊辰戦争後、朝敵の汚名をこうむった会津藩の人々が、現在の青森県の下北半島を中心とする旧南部藩の地に流罪として移住し、作り上げた藩の名前である。しかし廃藩置県で、すぐに弘前県(後に青森県)に合併されたので、斗南藩はわずかに一年半しか存在せず、知名度は低かった。」
4)今回はこの本の全般的な内容紹介をするのではなく、上記の1)~3)をひっくるめて、「木戸孝允 / 桂小五郎」のことに触れてみたい、と思ったからです。「維新三傑」の一人ととして“薩長史観”は高く評価しているが、果たして客観的な歴史の位置付けはどうなのか。
5)星亮一氏の木戸孝允(桂小五郎)に関わる記述は、極めて明解で明確である。
→「会津落城をもっとも喜んだ人物は、薩摩大久保利通と長州木戸孝允だった。薩摩は一度、会津と同盟を結び、長州を京都から追放した仲である。会津落城を聞いて、少しは憐憫の情を抱くと思いきや、大久保は木戸孝允と一緒に、「愉快、愉快」と手を叩いていた。相手に思いやりの心を持つ薩摩の西郷隆盛とは大違いの人物だった。後日、西郷が大久保と決別する気持ちがよくわかる。」(p.4)
→「最大の難関は長州の最高指導者木戸孝允だった。木戸は会津藩士を極度に恐れており、海を隔てた蝦夷地、現在の北海道に会津藩士を移住させようと考えていた。蝦夷地であれば、海を渡って東京に攻め込むこともあるまいという発想だった。(p.11)
→「木戸は京都時代、会津藩の取り締まりに遭い、捕らわれたことがあった。捕らえたほうがまさか悪名高き桂小五郎とは気づかず、「厠に行きたい」というので認めたところ、やおら袴を脱いだかと思うと脱兎のごとく駆け出し、対馬藩邸に駆け込んだ。勝海舟が直接、木戸から聞いた話である。」(p.11)
→「『西郷などに比べると木戸は非常に小さい。とても大きなことはできないだろう』と海舟がけなした男である。会津藩士に対する憐憫の情などひとかけらもなかった。このとき逃げられたのが運の尽き、会津藩は木戸に散々痛めつけられることになる。」(p.11-12)
<あとがき>から
→「最後に明治維新百五十年について私見を述べておきたい。2018年の明治維新百五十年にあたっては鹿児島、山口、佐賀、高知の4県は多彩なイベントをスタートさせた。そもそも明治維新百五十年の行事は安倍総理の呼びかけで、平成の薩長土肥連盟が誕生したことに始まる。」(p.223-224)
→「これに対して、薩長土肥と戊辰戦争で戦った越後や奥羽の人々には、明治維新というよりは戊辰戦争百五十年という捉え方をする人が圧倒的に多い。ことに戊辰戦争で最大の攻防戦を演じた会津の人々にとっては、明治維新ではなく戊辰戦争百五十年である。」(p.224)
→「会津人は藩主松平容保が京都所守護職時代、テロ行動を繰り返し、京都を騒乱に陥れた長州藩に対し、強い敵意を抱いており、加えて鳥羽伏見戦争後、恭順の意を表したにもかかわらず、松平容保の斬首を要求して、会津に攻め込んだ長州の木戸孝允、薩摩の西郷隆盛らは断じて許し難いと強く叫んできた。」(p.225)
→「昨今、高知県立坂本龍馬記念館は、長州の木戸孝允、当時の桂小五郎が、坂本龍馬にあてた手紙を公表した。そこには倒幕全体を能の「大舞台」、大政奉還を「狂言」になぞらえ、土佐藩の決意を促していた。」(p.225-226)
→「斗南の会津人に光が差したのは、憎む木戸孝允や岩倉具視、西郷隆盛らが進めた廃藩置県によってであった。移動の自由が保障され、職業の選択も自由になったからである。」(p.226)
以上、木戸孝允(桂小五郎)に関する部分だけを断片的に取り上げました。この本の主題は広範で奥深いものです。一読に値すると思います。
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『秀樹杉松』96巻2642号 2018-7-31 / hideki-sansho.haenablog.com #282
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