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橋下徹『沖縄問題、解決策はこれだ!』を読む(10)  第3章 沖縄ビジョンX

 1995年に大田昌秀沖縄県知事が打ち出した「国際都市形成構想」「ビジョンX」となりうると評価する橋下氏は、この構想をブラッシュアップする策を打ち出している。今日はその2回目です。 / Atelier秀樹

 

一国二制度の作り方

 

 あるものをナンバーワンオンリーワンに持っていこうと思えば、そのあるものに特例を認めてあげることが近道です。であれば、沖縄を「東洋一の観光リゾート」に持っていくためには、沖縄に日本全体に適用される法制度とは異なる特別の法制度を認めてあげること、すなわち一国二制度を認めてあげることが近道です。

 

 国際都市形成構想も一国二制度「的」なものを目指していましたが、中途半端でした。もっと明確に、大胆に、一国二制度を主張すべきでした。一国二制度は役人が認めたくないものだろうし、普通は実行できない。しかし政治が強い意志を持てば、一国二制度を作ることは可能であり、それこそが政治の役割なんですね。

 

 僕は大阪市において、一国二制度を作りました。厳密に言えば「一市二制度」ですね(笑)。大阪はさまざまな課題を抱えていますが、その象徴的なものの一つとして、西成問題というのがありました。西成って聞いたことがありますか?

<編注>西成のあいりん地区の不法ゴミ投棄への対策として、あいりん地区に限っての早朝ゴミ回収を実現して問題を解決した。(詳細略)

 

 僕は記者会見で発表しました。「西成のあいりん地区にはさまざまな課題が山積しているが、その解決はこれまで掛け声ばかりで終わり、実行されることが乏しかった。あいりん地区が変わって初めて大阪が変わる。…そのためには徹底してあいりん地区に行政の人的、物的資源を投入する。すなわち西成あいりん地区をえこひいきして、人とかカネを特別に投入する仕組みを作ります。名付けて西成特区構想です。

 

「一市二制度」で地域は生まれ変わった

 きちんとした制度ができれば、役所組織はガンガンに動きます。特に予算をあいりん地区に特別に投じる枠組みを作ったので、あいりん地区だけの特別の事業がどんどん立ち上がりました。(ニューヨーク市長が、治安改善の第一歩は落書き消しとゴミのない街だとする方針を打ち出した)僕もそれを真似て、西成あいりん地区の落書き消し、ゴミ収集、そこから露天商撤去、放置自転車の整理と展開していきました。(省略)

 

 いま、大阪市内の地価上昇率が最も高いのが西成なんですよ。すぐ隣は、人気の天王寺阿倍野地区で、天王寺動物園通天閣で有名な新世界も徒歩圏内です。「西成は危ない地域」と言われていた頃と比べて隔世の感です。まだまだ西成は発展していきます。これまで発展の度合いが少なかった分、伸びしろがあるんです。みなさん、一度西成あいりん地区を訪ねてみてください。本当にアジアを感じる、ディープで楽しくエネルギッシュな街ですから。

 

 このように街が変わりつつある根本要因は、西成特区構想、すなわち

一市(国)二制度にあると自負しています。

 

  役人が、市民全体を公平に扱うというのは当然のことです。そのようなルールになっているなら、なおさらです。ここで一国二制度というものを作るのは政治家の仕事。政治家がある地域を特別扱いにするルールや制度を作ればいい。特別の利益を受けない他地域の住民・国民から不公平だ!というクレームを受けながら、その他地域の住民・国民に納得してもらう説明を徹底的に行う。そのようにして一部地地域だけを特別扱いにしていくことは、役人にはできず政治家にしかできません。まさに政治家の腕の見せ所です。

 

国家戦略特区制度の難しさ

 国もこれまで一国二制度的なものにチャレンジしてきました。旧民主党政権の時には総合戦略特区制度、そして安倍政権になってからの国家戦略特区制度です。日本のがんじがらめの規制について一部地域のみ規制緩和するという制度です。確かに社会秩序の安定のためには規制は必要です。しかし日本の規制は特定業界団体を守ることが目的となっているようなものも多い。それら規制を緩和し、新規参入を促し経済を活性化するというのは、いうのは簡単ですが、やるのは超大変です。(略)

 

 そこで特定の一部地域のみ規制緩和して、まずは試験的に実証し、その効果が見える化されれば日本全体での規制緩和につながっていくのではないか、という考えが特区制度です。ところが特区制度によってもなかなか規制緩和は進まないですね。それだけ抵抗勢力のパワーは凄いんですね。でも最後は首相が決断すれば、日本の役所はそれに従っていくのが原則です。(加計学園問題省略)

 

 一国二制度をやるからには中国本土と香港のように、日本全体とは決定的に異なることを一部地域でやらなければ意味がありません

 

 このような時に仕事をしなければならないのが、政治家なんです。国際都市形成構想に掲げられた、沖縄に特例の税制などは、もっと大胆に、本土とは全く異なる国であるような制度にしなければならなかったんです。繰り返しますが、諸費税など、沖縄では0にするくらいの大胆さが必要です。それが沖縄を東洋ナンバーワンの観光リゾートに仕立てる肝の部分なんですから。

 

 今、2019年10月からの消費税増税に向けて増税対策が国会で議論されています。クレジットカードや電子マネー、そしてマイナンバーカードを利用した消費者に5%の還元(ただし東京五輪の2020年まで)をするという政策が実施されそうです。これは沖縄にとって、消費税に関して一国二制度を実行するための大チャンスです。沖縄だけ、2020年以後も5%の還元をやると政治が決めればいいだけですし、還元率も5%からもっと上げることも簡単にできます。

 

 あとは政治の気合だけ。是非とも、それくらいの大胆な一国二制度を、沖縄の活性化のためにやってもらいたいですね。システムは出来上がるので。ほんとやるのは簡単なんですよ。役人がダメですというのを、政治が振り払うだけでいいんですから!

 

 一国二制度を実現するのは、政治家の胆力一つなんです。しかも沖縄の特例を、大胆にすればするほど、本土との違いを出せば出すほど、沖縄がナンバーワン、オンリーワンの地位を築いていきます。

 これが沖縄を東洋一の観光リゾートにする実行プロセスです。重要なことは、その実行プロセスなんです。政治家の力によって大胆な一国二制度が実現すれば、沖縄にのみ適用飲されるその特例制度をフルに活用して、象徴的なプロジェクトを実行するんです。

 僕はその象徴的なプロジェクトの一つとして、シンガポールで展開されているカジノを含む統合型リゾート(IR)施設のようなものを、沖縄でも展開すべきだと思っています。

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『秀樹杉松』104巻2801号 2019.2.3/ hideki-sansho.hatenablog.com #441