(短編小説)福山英樹の半生 ~ある男の自分史から~(1)
(写真:Atelier秀樹)
宮沢賢治の童話・短編小説を読んで、様々な感動を覚え、自分の子供の頃を改めて思い起こしています。
古希を迎えた私は「自分史」の執筆を思い立ち、「子供の頃の想い出」を書き、続いて「青春の追憶」「定年後のわが人生」「わが山歩記」「WALK=歩く」「クラシック音楽への憧れ」「孫物語」などを書きあげました。
また、「親水記」(都内の川歩記) 、「坂めぐり」( 23区内坂歩記) も、本ブログ「秀樹杉松」に投稿しています。
一連の自分史執筆を終了した数年後に、
「福山英樹の半生」(自分史のダイジェスト版) を、短編小説風に認めました。
今回宮沢賢治の童話・短編小説を読んだのが刺激となったのでしょうか、自分史のダイジェスト版を本ブログにアップ(何回かの連載で)しようという気持ちになりました。その一部を紹介します。関心のある方は、チラッとでもお読みいただければ幸甚です。
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福山英樹の半生 (1)
<第1章> 仲良しグループ
「あーあ、つまんないなー」。
福山英樹は、家の前の道路に寝転がったまま、背伸びしてつぶやいた。きのうまで一緒に遊んでくれた、1つ歳上の男友達(4人)が国民学校に入学したので、突然一人ぼっちになってしまったからだ。
5人は仲のよい友達だったので、4人が学校から帰って来るまで、1人残された英樹は寂しい時間をもてあましていた。
放課後みんなが学校から帰ってくると、再会を喜び合ったものである。同じ年齢の男は集落には居なかったので、1級上の彼らは同情して、私を同級生扱いしてくれた。それがどれだけ嬉しかったか、今でも鮮明に覚えている。
英樹(ヒデ)の遊び友達は、同じ集落に住む六助 (ロク)、弥志郎 (シロー) 、右太郎 (ユウタロー:イシタ)と、少し離れた家の竹彦(タケシ) の4人であった。子供たちはみんな短い愛称で呼ばれていた。タケシ以外は4人とも苗字は「福山」であった。
シローは体が大きく、誰よりも相撲が強かった。息子が大相撲に入り、幕内力士にまで上がったと聞いたが、シローの子ならさもありなんと納得したものだ。
ロクも体が丈夫で、何よりも喧嘩早くて威張りたがり屋であった。ロクとシローはいとこ同士であったが、父親が兄だった関係上、ロクの方が幅をきかせていた。
二人の父親は、集落を取り仕切っていた「大家の福山」の弟で、大家の子分・走狗として威張っており、その子供たちも(特にロクは)強がっていた。
このように、体も大きく1級上のロクやシローには、ヒデはとても頭が上がらなかったが、「勉強ではまけないよ」という確固たる自信があった。
イシタは面白い男で、あわて者でもあったが、名前は「右太郎」(ゆうたろう)といった。ある時、試験の答案に「石太郎」(いしたろう)と書いて、先生に笑われた。
それ以来イシタが通称となった。イシタはひょうきん者で、ふざけたり冗談を言ってみんなを笑わせた。だから、右を石と書いたのは、うっかり間違えたのではなくわざと「石」と書いたのではないかとも思われた。
まだある。イシタが友達の家に遊びに行ったとき、そこのお母さんから「お母さん今何してるの?」ときかれた。普通なら「今日は田んぼに行った」とか「さっき畑の草とりしていた」などと答えるが、「便所でおしっこしていたよ」と答えた。一見”正確な返答”の様だが、この辺におどけ者らしい彼の本領が発揮されている。
当時近所で知らない人はいない程、有名な逸話ではある。当時の田舎では、よその家が何してるか、つまり農作業の進み具合をお互いに聞いたり、教えあったりしたものである。だから、子供に聞くのはふつうであった。
竹彦がタケシと呼ばれたのは、タケヒコは田舎のズーズー弁ではタケシコなので、短縮形のタケシが愛称になった。(英樹のヒデも、発音通りだとシデであった)。タケシは、家が少し離れていることもあり、遊びの常連ではなかった。苗字は福山ではなく高田といい、”大家一派”からは少し距離をおいていた。人柄も温厚で、シロー、ロク、イシタの三人にくらべて存在感は薄かった。
<友の死>
1級上にはもう一人の友がいた。しかし、一緒に遊んだ記憶はほとんどない。家が離れていたことにもよるが、彼自身あまり遊ばない子供だったのではないか。いや、遊ぶ時間がなかったのかもしれない。当時のいわゆる“小作農”で家が貧しい上に、父親が飲んだくれで働かなかったため、彼は小さい頃から働かされていたのだ。
彼、平川勝(マサル)は一家を支える労働力にされて、学校も休みがちであった。確か中学2年の時に不登校が続いたため、学校側が親と話し合った結果、何日間か通学した。しかし、学校へ行っても片隅で一人しょんぼりしていた。すぐに不登校に戻り、母親と農作業に従事したが、可哀想なことに、彼は自ら命を絶った。
近年イジメによる中学生の自殺が社会問題になっているが、これは貧しい寒村の小さな集落で発生した悲しい物語である。(続く)
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『秀樹杉松』109巻2914号 2019.8.24/ hideki-sansho.hatenablog.com #554