〜ブログ「秀樹杉松」600号記念〜
私の趣味の第一は読書です。従って、人並みに本を読んでおり、小説も愛読しています。だが、横山秀夫さんの著作は今回初めて読みました。横山ファンからはおそらく「何?それで読書が趣味だと言うんですか?」と笑われそうですね!
なお、本ブログ『秀樹杉松』は、2017年8月に投稿を始めましたが、この号で600号になりました。いささかの感慨を込めて、600番目を投稿します。お読みいただければ、嬉しいです。 /Atelier秀樹
私は大体は図書館から借り出して本を読みますが、新刊書は必要に応じて書店で購入しています。先日(昨年)書店の新刊書コーナーで、横山秀夫著『ノースライト』を発見。著者の名前に親近感(自分の名前にちょっと似ている)を覚えたので、さっそく手にとりました。さすがにお名前は知っていたのですが、書名(ノースライト)のカタカナの意味はわかりませんでした。1語の「ノースライト」なのか、2語の「ノー スライト」か「ノース ライト」なのか、私には瞬間理解できませんでした。
いま本稿を書くためによく見たら、小さな字で North Light と表紙にも書かれているのに気づきましたが、書店ではこの横文字が目に入らなかったのです。その時仮に気づいたとしても、North Lightの意味がわからなかったはずです。直訳すれば「北の光」でしょうが、その意味は小説の本文を読み始めて初めて分かったのです。
書名の意味がわからないので、いつものように、表紙カバーに印刷されている著者紹介を読んでみました。それによると「新聞記者、フリーライターを経て、1998年松本清張賞受賞」とある。私はこれだけの情報で「この本を買って読もう」と決めました。なぜなら、私は根っからの清張ファンで、あの分厚い全集のほとんどを読破しており、「松本清張は日本最大の小説家」と崇拝しているからです。
念のため横山秀夫さんの経歴の続きを読んだら、2000年日本推理作家協会賞受賞、「半落ち」……などの話題作を連打、とある。「半落ち」って聞いたことがあるな、なんか問題になったんじゃなかったかな、と思い出しました。さらに表紙のカバーの帯には「ミステリーベスト10、週刊文春第1位」の大きな活字が躍っている。さらに「横山ミステリー史上 最も美しい謎」とある。どうやらこの小説は推理小説のようで、429ページと分厚く、値段も1800円(税別)とある。年末年始かけてじっくり読もう、と、久しぶりに読書欲を刺激されて書店を出た。
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以上が、書店でこの本を発見してから購入するまでのプロセス(セレモニー)です。帰宅してから改めて表紙の帯の文章を読んだら、この小説の内容に少し触れている(写真のように)。
→ 一家はどこへ消えたのか? 空虚な家になぜ一脚の椅子だけが残されていたのか?
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文章はまだ続くが、それには目もくれず、早速本文を読み始めました。
最初のページ(p.3)の終わりの方にこう書かれている。
→ 四千万円の住宅の設計を任された。なのに心は浮き立たなかった。「センセが信濃追分に建てたんと同じいのを建ててほしいんや」。クライアントの要望があまりにもストレートすぎたからかもしれない。……。
(編注:この小説は建築士が主人公であることが判明した。確かに、表紙帯には「一級建築士の青瀬は、信濃追分へ車を走らせていた。……」とある)。
p.29に初めて、本書の書名に使われた「ノースライト」が出てくる。
→ 差し込むでもなく、降り注ぐでもなく、どこか遠慮がちに部屋を包み込む柔らかな北からの光。東の窓の聡明さとも南の窓の陽気さとも趣の異なる、悟りを開いたかのように物静かなノースライト――。
(編注:名文ですね!)
p.35でさらに「ノースライト」が敷衍(ふえん)される。
→ 「北向きの家」を建てる。その発想がぽかりと脳に浮かんだ時、青瀬はゆっくりと両拳を握った。見つけた。そう確信したのだ。………ここでなら都会では禁じ手の北側の窓を好きなだけ開ける。ノースライトを採光の主役に抜擢し、他の光は補助光に回す。心が躍った。………住宅を設計する者にとって南と東は神なのだ。
→ その信仰を捨てる。天を回し、ノースライトを湛(たた)えて息づく「木の家」を建てる。北からしか採光できない立地条件でやむなくそうするのではなく、欲すればいくらでも南と東の光を得られる場所でそれを成す。究極の逆転プラン。そう呼ぶに相応しい家だった。
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「ノースライト」の意味がやっとわかりました。上記に引用した本文をつなぎ合わせると、次のようになります。
→ 住宅を設計する者にとって南と東は神なのだ。「北向きの家」を建て、都会では禁じ手の北側の窓を好きなだけ開け、ノースライトを採光の主役に抜擢。柔らかな北からの光。悟りを開いたかのように物静かなノースライト。……
(編注:こう見てくると、書名の「ノースライト」は「北からの光」のようですね。北側の窓から差し込む、柔らかで、悟りを開いたかのように物静かな、ノースライト、でしょうか)
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(編注:ページをめくると「ノースライト」の具体像が、素人の私にも少しわかる)
→この家を真に「ノースライトの家」たらしめるため、苦心惨憺の末考案した「光の煙突チムニー」を屋根に授けた。(p.36)
→「光のチムニー」と名付けた楕円体の大きな明かり採りが三つ、等間隔で屋根から突き出ている。天窓と屋根窓ドーマーの機能をミックスして造形した苦心の作だった。(p.47)
→天窓や高窓からノースライトを降らせる採光法は、昔から芸術家のアトリエに用いられてきた。(p.76)
本書を読み終わってから、この小説の書評を、念のためネットで調べて見た。投稿数の多いのにビックリ。作者(横山秀夫)の作品を読んだことのある方が圧倒的に多く、それとの比較も出てくる。私は全くの初めてなので、先入観もなく普通に読むことができた。「殺人のないミステリー」と指摘する書評もあるが、もしかしてこれは、ミステリー小説の最高傑作なのかも知れない。
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以上のように、小説の内容やストーリーには一切触れませんが、これが私の「読後感」です。素晴らしい小説です。未読の方、特に横山作品を読んだことのない方は、ぜひお読みくださるよう、おすすめ申し上げます。
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(写真撮影=Atelier秀樹)
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『秀樹杉松』111巻2960号 2020.1.9/ hideki-sansho.hatenablog.com #600
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