


1)私はクラシック音楽の大ファンなので、池辺晋一郞さん解説の「N響アワー」を13年間視聴しました。クラシックの名曲を作曲家池辺さんの絶妙な解説をききながら、楽しみ、勉強しました。今は、「N響 ザ・レジェンド」で、壇ふみさん・池辺晋一郎さんコンビの放送を満喫しています。
2)クラシック音楽解説者としての池辺さん、にくらべれば、私は作曲家としての活動はあまり知らなかったのです。今回取り上げた最新作『音のウチ・ソト』の奥付に記載されたプロフィール(写真)で明らかなように、交響曲No.1~10、ピアノ協奏曲No.1~3、チェロ協奏曲、オペラ「死神」「耳なし芳一」「鹿鳴館」「高野聖」のほか、室内楽曲。さらに、映画「影武者」「楢山節考」、TV「八代将軍吉宗」「元禄繚乱」など、、、。すごいですね。
3)こうした功績の上に、放送文化賞(02年)、紫綬褒章(04年)受賞、文化功労者(18年)。
4)本書の中から、池辺晋一郎さんお得意の?軽妙なダジャレ?を含んだ箇所を選んで、紹介します(それぞれページ数も掲載)。それだけではなんですので、そういうアドリブが入っていない、モーツァルト、ショパン、シューベルトの音楽に言及した箇所(p.107)、なども若干掲載しました。
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<著者:池辺晋一郎さん>
(本書奥付から)
(本書p.16から)
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<本書の表紙カバー>
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【若村】仲代達矢さんと奥様の宮崎恭子さんが私の師匠になるわけですけれども、その次が池辺先生で。
【池辺】何を言ってるの。そういうこと言うとシショウをきたすよ(笑)。
【若村】神戸の方は優しいですね、ちゃんと笑ってくださって(笑)。私、「N響アワー」でも、池辺先生のこういうアドリブが炸裂すると、「それでは次にまいります」という係だったんですよ、三年間(笑)。(p.12)
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【池辺】(若村さんは)ものすごくしっかりとした、ロクサーヌっていう、有名な「シラノ・ド・ベルジュラック」っていう芝居に出てくる女性を演じたこともありました。このロクサーヌは、一回しかやらなくてもロクサーヌなんですよ。…一杯飲んでも「オン・ザ・ロック」というのと同じです(笑い)。あれ、ぼくなんか言いましたか?(拍手)
【若村】皆さん、ありがとうございます。でもあんまり、拍手されない方がいいと思います。先に進みませえんので……(笑)。(p.17)
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【若村】(仲代達矢さんは)、今年の春、「肝っ玉おっ母と子供たち」という無名塾の公演で、お母さん役をされていましたね。もちろん池辺先生の作曲で、歌も入るんですけれども、とても素晴らしかったです。この作品は反戦のお話でもあり、「母と子」がしっかりと描かれています。
【池辺】ブレヒトっていう人の作ですけれども、全然ブレない人なんだよね(笑)(p.22)
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【池辺】この方は、いま、富士山清掃やってるんですよ。すごいですよね。
【若村】すごくないんですよ(笑)
【池辺】いや、すごいですよ。富士山はたいていね、登山の格好で行くんで、正装では行かないんですよ。それを正装で(笑)(p.28)
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【小池】N響アワーの頃から池辺さんの駄洒落は知ってますが、駄洒落を言う人の頭の構造にすごく興味があって、似たものが瞬間に結びつくんでしょうね。
【池辺】シュルレアリスムの絵の手法にデペイズマンというのはありますが、あれが起きるんじゃないかと思っているんです(笑)。本来同居すべきではないものがそこに来てしまう。シュルレアリスティックな構造なんです。……。
【小池】瞬間的に出てくるんですねよね。
【池辺】咄嗟ネタとストックネタとあるんです。
【小池】破竹(八九)の勢いで書いて、苦渋(九○)の思い出……というのもありましたよね。
【池辺】交響曲のことね。八番、九番と書き終えて、いま一〇番にかかっています。(p.43)
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【池辺】「ライオン」という曲はぼくが二○代の時の作品ですけど、金管楽器が一六人いるんです。四人ずつ四つのグループがある。金管楽器が吠えたてるからライオンなんだろうとか、真鍮の金色がライオンの鬣(たてがみ)の色なんだろうとか言われたんですけど、全然そうではなくて、四本のグループが四つでシシ(獅子)一六だからです。(p.51)
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【池辺】邦楽器の笛、尺八、竜笛、篠笛、笙(しょう)とか十数人の曲を書いていますが、タイトルは、「竹に同じく」というんです。日本の管楽器はほとんど竹だからですけど、日本では管楽器のことを「つつ」と考える。筒は「竹」に「同」なんです。
【小池】なるほど!面白い(笑)(p.52)
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【池辺】自分に発見を強いるためにもピアノを弾いてみる。もちろん黒鍵も弾きますよ。
【小池】?......あ―(笑)。(p.57)
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【池辺】ぼくは性癖として子どもの頃から今日に至るまで七○年以上生きてきて、誰かを嫌いになったということがないんです。
【小池】まあ!すごい! それ驚愕(きょうがく)。
【池辺】男女共学でした(笑)。....... (p.61)
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【小池】言葉を音として感じるということはありますか。
【池辺】室町時代の洒落の本を持っているんです。言葉遊びです。……たとえば「天狗の涙」とは何を指すか。答えは俎(まないた)。天狗はかつては猿田彦だったけど室町時代は魔物の代表、魔なんです。それが泣いた。で、ま・ないた。
「近き間に必ず参りまする」は? 答えは粽(ちまき)。「ちかき」の間(真ん中)に「か」ならず、「ま」入りまする。で、「ちまき」になる。
(編注:ちときの間に、かではなく、まが入る)
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【池辺】昼下がりって独特の感じがある。午後の早い時間は、なんか普段と違う音がするような感じがして、小学校高学年ぐらいでドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」を聴いた時に、昼下がりの空気の匂いがするような音楽だと思ったんです。ちょっと気だるくて。
【小池】わかります。芝居をやっている方が、光でも朝の光と午後の光と夕方の光で全部違うんだと言ってました。舞台で見ていたら、たしかにそうです。(p.68-69)
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【小池】音楽は一つの作品の解釈になりますよね。
【池辺】それはおっしゃる通りです。……作曲するということは読解力の答案用紙を提出することなんです。詩に対して曲をつけることは、私はこの詩をこう読みましたという答えですから、すごく怖いですよ。
【小池】つけていただいただけで、詩を書く者はすごく嬉しいんですけど、一つの解釈を提示することだなと思って、というのは作曲によって、映画や芝居や詩でもそうですけど、違って見えてくることがありますから。
【池辺)だから責任重大です。「しがない」なんて言ってられない(笑)。(p.73-74)
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【池辺】.........合唱を指揮している時、みなさん、一生懸命に音符の高さ、長さを勉強してこられるのですが、休符、音を出さない部分が甘くなる傾向があります。……「休符はとても大事です。年金と楽譜はキュウフが大事!」(笑)と言ったら、合唱団の人たち、みんな笑った。(p.82)
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さて、音符の話です。僕は作曲しているときに、「音の生理」みたいなものの圧力をすごく感じます。……意志を持っているように感じる。……そういう意志を持った音を使って作品を作るには、その音とコミュニケーションをとる必要があって、実は、それが作曲するときのいわば一番の課題になるのです。音は生き物のように意志を持った存在である― これが音の生理の一つの側面です。(p.83-84)
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曲は、作曲家が勝手に作っているものではありません(笑)。.....音の生理というものに支配されているとぼくは思います。……音というものがそれだけ、ものを言う存在だということです。(p.106)
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それは音というものが持つ自然の摂理であり、それを受け入れて、自然に扱うことが大事なのだと思います。モーツアルトやショパンら「天才」と言われる作曲家たちは、それをわかっていたと思います。
たとえばモーツアルトは、「音との会話」をいつでも自然に無意識のうちにできていた人だと思うし、ショパンは、音がどういう飾りをほしがっているのかを本能的に察知できる人だったと感じます。シューベルトは、美しい旋律の断片が空中を飛んでいるのを感じ取ることができた人で、スプーンか何かでそれをふっとすくい取ってくるようにして曲を書いているような感じがしますね。(p.107)
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「合唱」は「演劇」に似ていると思うこと、よくあるんです。…….何回も何回も練習して歌っているけれども、そこで初めてその言葉を発見する。ピアノが黒鍵を弾いていてもハッケンする(笑)。そういう意識が大事なのです。(p.116)
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【池辺】今日の対談相手は長年親しくして来た池澤さんですが、先ほどあってすぐ、非常にアップ・トゥ・デートな素晴らしい言葉を発してくれました。まずそれを挨拶がわりにみなさんに来てもらって(笑)。
【池澤】いや英語なんですけど……「カルロス・イズ・ゴーン」(笑、拍手)。(p.136-137)
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【池辺】ある時、ジャイアンツの、当時はキャッチャーだった阿部慎之助選手に、あの首相が会ったらしい。その時、「あなたは捕手なそうですが、私もホシュです」と言ったらしい。悪くないじゃないですか(笑)。ただ残念なのは、そこまで言うのなら、もう一つあったほうがいい。「私はトウシュ(党首)だけど、あなたは投手じゃない」と(笑)、そこまでいけば面白かったね(拍手)。いいですよ、拍手は(爆笑)。(p.158)
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【池澤】教育にはもいろんな問題があると思うけれど、子供には力があるからね。……文部科学省は、不登校というものを自分たちに対する批判と受け取る必要があると僕は思う。学校に「今日行くか行かないか」は教育じゃないですよ。行かなくてもいいんです。
【池辺】キョウイク……、そうだね(笑)。(p.184-185)
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【福島】池辺さんは文化功労者にもなられましたね。
【池辺】文化功労者と後期高齢者にほぼ同時になったから、時々どっちだかわからなくなる。「後期功労者」とか「文化高齢者」とか言ってしまうので(笑)。(p.190)
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【池澤】知恵と工夫ですよ。……まあお互いプロなんだから。様々な手段を繰り出すというところでは、まだまだ工夫の余地はあるし、たたかう余地もある。
【池辺】プロはアマイこと言っちゃいけないんだよね(笑)。(p.196-197)
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(写真撮影:Atelier秀樹)
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『秀樹杉松』113巻2982号 2020.4.11/ hideki-sansho.hatenablog.com #622