秀樹杉松

祖父と孫、禾と木、松と杉

重松 清『ひこばえ』(上・下) を読みました。〜両親離婚、父家出、母再婚、二人の父親、実父死亡、孫誕生。“ひこばえ”を考えました。

 

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 “コロナ外出自粛/Stay Home”とはいえ、終日在宅は耐えられない。近くの書店へ行って新刊書コーナーを覗いたら、分厚い上・下2冊本の『ひこばえ』に目がいきました。書名の「ひこばえ」に一瞬「何?」と思ったが、直ぐ「ああ、あれか」。だが、この書名だけでは本の内容は分からない。

 

著者は重松清。名前は知っているが、確か作品は読んだことがない?

私の読書法は、予備知識や先入観なしに、いきなり読み始めることが多い。今回も、どんな内容の小説か知らぬまま、購入して直ぐ読み始めました。

 

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もっとも、上・下2冊で700ペーもあるので、表紙の帯に眼をやったら、「朝日新聞好評連載、待望の刊行!」とあるのに驚きました。朝日は私の愛読紙。だが、この小説は知らなかった。私は新聞の連載小説欄には眼を通さないので、蓋し当然。新聞の連載小説を読まないのは私だけではないでしょうが、小説欄に目も向けないのは、もしかして私ぐらい?

 

そんな私ですので、作者の重松清さんはよく知りませんでした。情けないですね。今ネット情報(好書好日http://books.asahai.com)で調べたら、重松さんは「2002年の『流星ワゴン』、08年の『とんび』と、父と息子の関係を書き継いできた作家」とある。だが、私は全然知りませんでした。

 

のみならず、坪田譲治文学賞山本周五郎賞直木賞吉川英治文学賞毎日出版文化賞などを受賞しています。推理小説、時代小説、歴史小説を中心に読んできた私としては、迂闊でした。でも、今回『ひこばえ』で遅まきながら、重松清さんを知ったのは、幸運でした。読書にはこういう奇遇もあるから、やめられないですね!

 

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(上巻表紙の扉)

 

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(下巻表紙の扉)

 

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作者重松清さんプロフィール(本書奥付から)

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作者の重松清さんは、「『ひこばえ』連載を終えて」(朝日新聞へ投稿)で、次のように書いています。

「大切な人が亡くなったり遠くに行ってしまったりしたときに、よく「胸にぽっかりと穴が空く」と言われる。その「穴」を描きたかった。より正確に言えば、自分の胸に穿(うが)たれた「穴」と共に生きていく還暦間近のオヤジのお話を読んでいただきたかった。(略)

本作は『流星ワゴン』と『とんび』という作品と同じカテゴリーになる。少なくとも、作者としてはそう位置付けている。いずれも父親と息子の関係を描いたお話で、ストーリー以前の根っこの根っこの部分に、自分自身の父への思いが息づいている三作でもある」

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重松清『ひこばえ』を読んだ、私の感想

 

この長編を読んでの感想は、人それぞれ、いろいろいっぱいあると思います。私は「ひこばえ」に文字通り関心が集中しました。ひこばえ(蘖)とは、ウイキペディアでは、次のように説明されています。

蘖(ひこばえ)とは、樹木の切り株や根元から生えてくる若芽のこと。太い幹に対して、孫(ひこ)に見立てて「ひこばえ(孫生え)」という。春から夏にかけて多く見られるが、俳句では春の季語となっている。森林伐採の後、切り株からの蘖によって、新たな森林ができるようにすることを萌芽更新という。かつての里山はこれによって維持された。

 

切り株の周囲から生え出る蘖(ひこばえ)  (ウィキペディア  ja.m.wikipedia.org より)

 

この小説の主人公は、50歳代半ばで孫の誕生を迎えています。まあ、普通でしょうか。ちなみに、子供が3人いる私は(いま勘定したら)、68歳で孫を授かりました。“高齢者”になってからの孫、しかも一人の可愛い孫です。

 

実をいうと、孫には恵まれないかも、と半ば諦めていたのです。少子高齢化社会。少ない子供に加えて、独身者や子供を産まない人の増加によって、孫のいない人が増えているそうです。「高齢者が集まれば孫の話に花が咲く」は、次第に遠のいている?

 

人間(いや、生物)の生命には限りがありますが、子供の中に、孫の中に生きている。つまり生命は受け継がれ、引き継がれていく。私は、なんとなく、そう考えています。昔なら曽孫(ひまご)も普通だったでしょうが、現代では曽孫は多くはないかも。その意味でも、孫の誕生=ひこばえ(孫生え)はうれしかったです

 

この小説の筋や展開もさることながら、私は読みながら、読み終わってから、そんなことを考えています。読む人によって、視点や観点は様々だと思いますが、ぜひ一読を勧めたい本です。


 

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写真:Atelier秀樹

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『秀樹杉松』113巻2987号 2020.4.23/ hideki-sansho.hatenablog.com #627