<はじめに>
前号(8/24)で取り上げた、宮部みゆき『三島屋変調百物語』六之続(第6巻)は分厚い単行本で、読み切るのに何日もかかりました。そこで、「今度は短い小説でも読もうか」と書店の文庫本コーナーを覗いたら、吉村昭『殉国 陸軍二等兵比嘉真一』を発見しました。
吉村昭さんは著名な作家ですが、あまり読んだことがなく、書名にも惹かれたのでさっそく購入。二日で読み終えました。とても良い本でした。そこで、ブログ<秀樹杉松>で取り上げます。
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1)吉村昭『殉国』の主人公比嘉真一は、沖縄県立第一中学校四年生。時は終戦直前の昭和20年3月。
2)ガリ版ズリの召集令状を受けたのは、五年、四年、三年生だけで、二年、一年生は召集令状の発せられたことを耳にして自発的に学校に駆けつけた。一年、二年生のうち約200名は、昨年11月末に通信隊要員に応募し、数日前に各部隊の無線中隊に配属されていた。
3)教頭「只今より軍のご許可を得て、五年生、四年生の卒業式を挙行する」(注:旧制中学校は5年生が最高学年だが、全国的に定められた学制短縮で、4年生も5年生と同時に卒業することになっていた)。校長から卒業証書が手渡され、式は終了。
4)配属将校の中尉が壇上に立った。
「本校の3年以上の生徒は、一昨日の昭和20年3月25付をもって全員召集令状を受けた。お前らは、すでに皇国の兵である。沖縄全県下中等学校生徒に召集令状が発令され、それぞれ鉄血勤皇隊を組織した。本校に於ても、本日ここに鉄血勤皇隊沖縄県立第一中学校隊を編成し、大元帥陛下のみもとに馳せ参ずる」
5)「俺は、日本人だ。日本人の一人として、沖縄県民の力を内地の人々に示す絶好の機会ではないか。自分も、皇国の兵の一人として武勲を立てて戦死し、大和に設けられているという靖國神社にまつられたい」(主人公:比嘉真一)。
6)部隊配属命令は、3月31日に発令された。真一は、第五砲兵司令部配属となり、主として伝令や壕堀の仕事で、豪内で炊事班の仕事を手伝った。
7)沖縄師範学校男子部を始め、第二・第三中等学校、農林・水産学校、那覇市立商業学校、私立開南中等学校の各校の生徒は、それぞれ軍命令にもとずいて鉄血勤皇隊を編成、隊員は全て陸軍二等兵として各隊に入隊。
また沖縄師範学校女子部、第一・第二高等女学校、首里高等女学校、私立昭和高等女学校、積徳高等女学校の各女学校の生徒は、看護婦見習いとして各軍病院に入隊したという。
(以下省略。254ページの薄い文庫本ですので、一読をお勧めいたします)
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<備考1>「解説」(森四郎)より
吉村氏の取材は当然のことながら、鉄血勤皇隊1780名、師範学校女子部・県立第二高女などの女子生徒581名が、従軍看護婦として野戦病院で働かされた事実を追っている。(中略)
これこそまさしく国に殉じた人たちの物語であり、作家吉村昭が体感した慟哭と十五歳の少年時代への魂の遍歴にほかならない。
<備考2> 大日本帝国陸軍の階級
若い方はご存知ないでしょうが、日本陸軍の階級を掲載します。(戦争時代育ちの私ですが、忘れかけていたので、改めて調べました。
陸軍二等兵ー一等兵ー上等兵ー兵長ー伍長ー軍曹ー曹長ー准尉ー少尉ー中尉ー大尉ー少佐ー中佐ー大佐ー少将ー中将ー大将
○兵隊さん(兵・兵隊・兵卒)= 二等兵・一等兵・上等兵・兵長
○准尉= 准士官
○士官(将校)= 少尉・中尉・大尉 / 少佐・中佐・大佐 / 少将・中将・大将
* 本書の主役「鉄血勤皇隊沖縄県立第一中学校隊」隊員は、全員が「陸軍二等兵」(兵隊の一番下の階級)でした。
<備考3>
『殉国 陸軍二等兵比嘉真一』の書誌
単行本 1982年6月 筑摩書房刊 『陸軍二等兵 比嘉真一』を改題
本書(2020年7月刊)は、1991年に出た文春文庫の新装版
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(写真=Atelier秀樹)
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『秀樹杉松』116巻3046号 2020.8.29/ hideki-sansho.hatenablog.com #686