宮部みゆきさんの『三島屋変調百物語』。”怪談もの”シリーズなので、敬遠していましたが、八乃続(第8巻)の書名『よって件の如し』につられて読みました。
小説の主題にはあまり興味ないが、さすが読ませる内容です。特に(いつもながら)古い用語や表現が多く、しかもしっかり漢字が使われ、仮名がふられているので読みやすい。最近の小説は(普通の本も)バカに仮名が多くて読みにくい。その点、宮部さんのは”国語の勉強”にもなる。
「よって件の如し」は、年配者なら誰でも知っている表現だが、若い人はどうでしょうか?念の為スマホで検索したら、次のように出てくる。
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「そこで前記記載の通りである」
~コトバンク(kotobank.jp)、Goo辞書(dictionary.goo.ne.jp)
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○「よって」の漢字は「仍って、依って・因って」三つが使われますね。
○「件の如し」「くだんのごとし」
○「件」
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くだり(行・件)の変化した語。
前に述べた事柄を、読者や聞き手がすでに承知しているものとして、さし示す語。
~『国語大辞典』(小学館)
<編注>
現代風に簡単にいえば、「以上の通り」、「上記(左記)の通り」
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上記の通り、「よって件の如し」=「そこで前記記載の通りである」
となりますが、どうして宮部さんがこれを「書名」に持ってきたか、ちょっと興味が湧いた。
多くの場合、本文の何処かで使った用語や主題を「書名」にするケースが多いので?それを探ってみました。
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<本書 p.515>
「この信じ難く途方もない事の次第を、お城に送る申立書にしたためる際に」
――この文書の一言一句に、中ノ村と羽入田村の者どもの命がかかっている。
私の言葉で殿のお心を動かし、信を得ることができなければ、全てが水泡に帰する。それを思うと。筆先が震えて文字が書けぬ。
「文書の締めくくり、『よって件の如し』の一文の上に汗が滴ってしまい、二度も書き直したと、後年、面目なさそうにお話になっておられたのでございます」
それこそが、真の武士(もののふ)の姿である。
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写真 / Atelier秀樹
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『秀樹杉松』133巻3986号 2022.9.5/ hideki-sansho.hatenablog.com #1026