秀樹杉松

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『落合博満アドバイス』(落合博満著)を読む

「指導者に明かす野球の本質」(副書名)  / Atelier秀樹

 

  今朝の新聞広告を見て「巨人軍非常事態宣言』(野村克也著)を買うつもりで書店に行ったら「取り寄せ」と言われた。ちょっとその辺を見回したら、『落合博満アドバイス』(落合博満著、2017.7.5、ダイヤモンド社)があるではないか。落合博満氏の『采配』は読んでいるが、この本の発行は知らなかった。早速購入して読んだ。

  本書の構成は→

(はじめに) 1点リード9回裏二死満塁でイチローを迎えたら

(一章) 勝負論、(二章) 練習論、(三章) 編成論、(四章) 監督論、(終章) 明日の野球界

(終わりに) 指導者にも選手にも探してもらいたい、上達の“コツ”

  サブタイトル(副書名)は「指導者に明かす野球の本質」だが、プロ野球ファンの小生にもよく分かるように書かれている。表紙のカバーや帯には、「セオリーとは、負けた時のための言い訳に過ぎない」「私は8年間の監督生活で実感した。究極の采配は、何もしないことだ」など、本文からの引用が踊っている。 

 

 落合博満氏の輝かしい経歴の紹介は必要ないだろうが、念のため記せば →

1)1981~83年、3年連続で首位打者

2)82年史上最年少28歳で三冠王、85年、86年三冠王。(3度の三冠王は落合のみ

3)2004~2011年、8年間中日監督つとめ、四度のリーグ優勝、一度の日本一

4)2013年、中日球団GMゼネラルマネジャー)。今年1月退任。

  小生は三原脩広岡達朗落合博満栗山英樹の4監督のファンである。だから、本書『落合博満アドバイス』は、難しいことがいっぱい書かれているが、落合ファンの小生には「なるほど」と思うことばかり。落合氏は秋田県出身で、東洋大学を中退。社会人野球の東芝府中からロッテに入団したが、プロ野球入団時のエピソードを、本書終章「明日の野球界へ」の「野球人である以前に、社会人であれ」において言及している。興味深いので、一部引用します。

  野球でプロになりたいと考えたことなどない。何しろ、高校でも大学でもまともに野球をしていないのだ。社会人で野球ができることすら大きな幸運である。では、東芝に定年まで勤めようと思っていたかといえば、そういう気持ちも薄かっただろう。要するに、明確な目標を持たずに生きていたのだ。

 当時、東芝の野球部都市対抗に出場したこともない弱小で、プロ野球からドラフト指名されるような選手もいなかった。(略)入社3年目あたりに、初めて手の届く世界としてプロ野球を意識した。(1976年、東芝府中南関東代表となって、都市対抗に出場)。22歳で四番ファーストを任されていた私のプロ入りに、会社の人たちも期待してくれた。だが、その年、翌77年とドラフトで指名されることはなかった。

 5年目となった1978年、東芝府中は予選で敗退してしまったが、私は電電東京に補強された。オランダで開催されるハーレム国際大会とイタリアで開催されるマチュア野球世界選手権大会に社会人の日本代表で出場することになり、私も20名のメンバーの選ばれた。この年(1979)のドラフトでロッテから3位で指名された。

 私のドラフト指名には、様々なエピソードがある。当時ロッテは人気がなく、ドラフト指名した選手が毎年のように入団を拒否していた。そんな球団だから、なんとか入団してくれる選手を指名しようと考えたのだろう。私の視察に来た時にも「指名したら必ず入団してくれるか」と念を押された。そして、この年も指名した4名のうち2名は入団しなかった。

 また、長嶋茂雄監督(当時)が私の打撃を評価してくれていたようで、巨人は2位で私を指名するつもりだったらしい。しかし、江川卓との契約を巡る騒動でドラフト会議をボイコットしてしまい、私の指名は実現しなかった。さらに、阪神も私を高く評価してくれていたが、前年もこの年も、別の選手を指名した。このように、私はいくつかの可能性の中からロッテでプロ生活をスタートしたことになる。

 では、巨人に2位指名されていたらどうだったのか、あるいは阪神が指名してくれていたら……。そう振り返ってみると、巨人でも阪神でも、私は大成できなかったのではないかと思う。実際、即戦力と期待されて入団したものの、2年間は一軍と二軍を行ったり来たりしている状態だった。それが常勝を義務付けられた巨人だったら、さっさと見切りをつけられていたことも考えられる。また、秋田の田舎で暮らしていた者にはただでさえキツく聞こえる関西弁が飛び交う環境では、精神的にも参っていたかもしれない。

 だから、ロッテでよかったのだ。そう考えるようになった。(以下略)

 

                                                         (秀樹杉松 85巻/245号) 2017.9.17