『眠れないほどおもしろい百人一首』(板野博行著、三笠書房)を読む。〜有明の月、夜半の月、朝ぼらけ、、、。
最近つくづく思うことは、”人生いろいろ”だなということです。どんな時代に、どういう場所に生まれ、いかなる環境で育ったか、はその人の人生展開に少なくない影響を与える、と実感するのです。
私が生まれ育った場所は、東北の農村地帯。時代環境は、5歳の時に太平洋戦争勃発、国民学校初等科(今の小学校)3年生で終戦(敗戦)。戦争教育から突然、平和・民主主義教育に変わった。劇的な時代の洗礼を、まともに受けた世代です。
「大変な時代に、恵まれない場所に」生まれた、ともいえるでしょうが、私は必ずしもそうは思わない。この与えられた時代・土地・環境で鍛えられ、試練を乗り越えて、その結果として今の自分がある、と客観的に捉えています。「戦争を知る世代」ですが、「兵役を免れた世代」でもあります。
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さて、『眠れないほどおもしろい「密教」の謎』(並木伸一郎)、『眠れないほどおもしろい空海の生涯』(由良弥生)に続いて、
『眠れないほどおもしろい百人一首』(板野博行)を読んでみました。三笠書房の「王様文庫」は、絶妙な書名を考えたものですね。書名に釣られて?ほとんど関心がなかった密教・空海・百人一首について読み、「読んでよかった、勉強になった」ので、こうしてブログを投稿しているのです。
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百人一首にほとんど縁がなかったのは、やはり生まれ育った時代、環境によるものかもしれません。今回まとまった本を読んで、初めて知ることが多かったが、歌心がない自分にはよく理解できない面もありました。ただ、百首に目を通している中で、「月」のワードが含まれる歌に注目しました。
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私は早朝のシルバー就業をしています。二日に1回、6時から8時まで働いているので、(特に冬の時期は)「星」と「月」が友達です。月を眺めながらの出勤・就業となります。かつての「天文少年」は今でも、星と月(有明の月)が大好き! だから、早朝の出勤・就業は全然苦にならないのみか、私にとっては、絶好の環境に思えるのです。
<備考>
1)「天文少年」の私は、月の満ち欠けは「実際に月自体が満ち欠けする」と思っていた時期もあった。また、(太陽の光を反射していることも知らず)月が自ら白い光を発しているとも思っていた。何しろ、本当に「兎が餅をついている」とも。このように、「月」は私に限りなく大きな夢を与えてくれる(今でも!)のです。
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2) ところで、太陽と月は実に縁深い天体ですね!
→ 昼/夜、陽/陰、赤/白、自ら光を発する/太陽の光を反射するだけ、祖父/孫(太陽を回る地球、地球を回る月)、夜は見えない太陽/朝昼夕でも見える月、
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3)我々は普段、夕方の「上弦の月」を見るので、日の出前の「下弦の月」を見ることは少ない。しかし、百人一首の世界は少し違って、「月」「有明の月」「夜半の月」が主役。やはり別世界の感じですね。「天文少年」だった私は、今また「有明の月」に親しんでいるのです(早朝就業と早朝散歩で)。
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という次第で、「月」という言葉が入っている歌に親近感を覚えたのです。調べたら、100首のうちで、単独の「月」が6、「有明の月」3、「夜半の月」2、「有明」1、「朝ぼらけ」1、の13首に「月」が出てきます(「有明」「朝ぼらけ」も含む)。
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古い時代は男性の「通い婚(妻問婚)」だったようで、百人一首にもうたわれているんですね。夜には出かけ、用を足して?朝帰り。男も結構”大変”だったともいえるが、”気楽”でもあった? 待つ身の女性の思いやつらさも詠まれている。いずれにせよ、私には想像もつかない世界です、ね!
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その13首を掲げます。
#⚪︎⚪︎は百人一首歌番号、[訳]は著者・板野博行氏の訳、p.⚪︎⚪︎は本書ページ数
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○めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬまに
雲がくれにし 夜半の月かな(紫式部) #57 p.34
[訳]めぐり逢ったのかどうか、それすらわからないうちに雲隠れした夜中の月のように、あの人もあっという間に帰ってしまったことです。
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○やすらはで 寝なましものを 小夜更けて
かたぶくまでの 月を見しかな(赤染衛門)#59 p.37
[訳](あなたが来ないと知っていたら)ためらわないで、とっくに寝ていたでしょうに。信じて待っている間に夜が更けてしまい、西の山の端に傾くまでの月を見てしまいましたよ。
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○嘆けとて 月やはものを 思はする
かこち顔なる 我が涙かな(西行法師 )#86 p.43
[訳]「嘆け」と言って、月は私に物思いをさせるのだろうか。いや、そうではないのに、月のせいにして流れる私の涙よ。
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○明けぬれば くるるものとは 知りながら
[訳]夜が明けてしまえば、また必ず日が暮れてあなたに再び逢えると知っているものの、それでも一度は別れて帰らなければならないのが、恨めしく思われる朝ぼらけです。
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○夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを
雲のいづこに 月宿るらむ(清原深養父)#36 p.156
[訳]夏の短い夜は、まだ宵のうちだと思っていたら明けてしまった。月は今頃、雲のどのありに宿をとっているのだろうか。
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○今来むと いひしばかりに 長月の
有明の月を 待ち出でつるかな(素性法師 )#21 p.208
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[訳]「日が暮れたら、すぐにここへ来よう」というあなたの言葉を信じて待っていたばかりに、秋の夜もずいぶん更けて、九月の明け方に出る有明の月を待つことになってしまいましたよ。
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○有明の つれなく見えし 別れより
暁ばかり 憂きものはなし(壬生忠岑)#30 p.216
[訳]有明の月が、愛する女性との別れのときに、そ知らぬ顔をして空にかかっているのを見たときから、暁ほどつらく哀しいものはなくなりました。
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○朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに
[訳]ほのぼのと夜が明ける頃、空に残っている有明の月の光が降り注いでいるかと思うばかりに、吉野の里に降り積もっている白雪よ。
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○ほととぎす 鳴きつる方を 眺むれば
[訳]ほととぎすが鳴いた方角を眺めやると、その姿はなくて、ただ有明の月が残っているだけだよ。
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○秋風に たなびく雲の 絶え間より
もれ出づる月の 影のさやけさ(左京大夫顕輔) #79 p.244
[訳]秋風にたなびいている雲の切れ間から、漏れ出てくる月光の、なんという澄み切った明るさだろう。
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○天の原 ふりさけみれば 春日なる
三笠の山に いでし月かも(安倍仲麻呂) #7 p.258
[訳]はてしない広さの大空を振り仰いでみると、美しい月が出ている。あの月は、故国の日本で見た春日の三笠の山に出ていた月と、同じものなのだなあ。
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○月見れば 千々にものこそ 悲しけれ
わが身ひとつの 秋にはあらねど(大江千里) #23 p.266
[訳]月を見ていると、なんだかいろいろともの哀しさがこみ上げてくる。私一人のためにきた秋ではないけれど。
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○心にも あらで憂き世に ながらへば
恋しかるべき 夜半の月かな(三条院) #68 p.272
[訳]心ならずも、このつらい世の中に生きながらえることがあれば、きっと恋しく思い出すに違いない今夜の月であることよ。
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写真:Atelier秀樹
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『秀樹杉松』120巻3727号 2021.1.31/ hideki-sansho.hatenablog.com #767