秀樹杉松

祖父と孫、禾と木、松と杉

宮本輝『流転の海』、第九部「野の春」で完結。感動の裡に、全9巻を読みきりました。

 

 昨年の10月から今年正月にかけて宮本輝『流転の海』全冊(9巻)をやっと読了しました。正直、途中で読むのをやめようかと思ったりしましたが、読み出したからには読みきろうと頑張りました。それだけの長編だと言いたいのです。 /   Atelier秀樹

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                         宮本輝『流転の海』第九部「野の春」

              (2018年10月 新潮社刊)

 

 宮本輝ファンはおそらく最初からお読みでしょうから、37年間かけてじっくり読めたでしょうが、私の場合は4カ月で9冊を読んだのですから、“大変”☺️でした。面白くもなく、読む価値が乏しいものなら、当然途中で止めたでしょう。短期集中で全9冊を読みきったと言うことは、この本の底深い価値があるからこそで、読むのをやめることができなかったのです。

 

 さて、私の拙い文章よりも、出版社(新潮社)が最終巻の「第九部 野の春」の表紙や帯につけたPRを紹介します。単なる「宣伝文句」ではありません。なぜなら、実際に読んだ私の感想も全く同じだからです。

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  シリーズ累計230万部、日本文学の金字塔「流転の海」完結! 自らの「父」を描く大河小説

  執筆37年、感動の最終幕。畢生の大河小説ついに完結。

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 自らの父をモデルにした松坂熊吾の波乱の人生を、戦後日本を背景に描く自伝的大河小説「流転の海」。昭和四十二年、熊吾が五十歳で授かった息子・伸仁は二十歳の誕生日を迎える。「俺はこの子が二十歳になるまでは絶対に死なん」そう宣言した熊吾の、大願成就を家族三人で祝うが……。

 熊吾の人生の最期には、何が待ち受けていたのか。妻の房江は、伸仁はどう生きていくのか。そして、幸せとは宿命とは何だろうか。

 ここに人生のすべてがある――。時代を超えて読み継がれる大河巨編、完結。

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あとがき(抄)から

 ○いつかは最終巻の一行を書き出さねばならず、そしてその最後の数行も書かねばならないという思いは、第五卷を書き終えた頃から大きな重圧としてのしかかってきた。

 ○その心の根底には、「流転の海」が未完で終わってしまうのではないかという恐怖があった。 

 ○最終巻の題を「野の春」と決めたとき、なぜか最後の一行まで書き続けられる気がした。

 ○最後の数行を書くとき、私は心臓をドキドキさせ、手にたくさん汗をかき、指は震え……。きっとそういう状態になるだろうと予想していたが、いつもより心は静かで、書き終えた瞬間、ひとりでガッツポーズをして「やった」と小声で言った

 ○作家としての責任を果たせた安堵感だけで、全九巻を完成させたという達成感などなかった。 

 ○「お前はやり遂げた一つの小説を三十七年間も書きつづけて、お前はえらい。見上げたやつだ。どんなに褒めても褒め足りない」と自分を賞賛する言葉を胸のうちでつぶやき始めたのはそれから数日たってからである。

 ○私はいま七十一歳。全卷を書き終えるのに足掛け三十七年という歳月を要したことになる。三十七年もかけて、七千枚近い原稿用紙を使って、なにを書きたかったのかと問われたら、

「ひとりひとりの無名の人間のなかの壮大な生老病死の劇」と答えるしかない。それ以外の説明は不要だと思う。

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 すごい小説が書かれたものだ。文学史に残る金字塔」でしょう。宮本輝さんは、芥川賞吉川英治文学賞芸術選奨文部科学大臣賞、司馬遼太郎賞、紫綬褒章などを受賞しているが、今度の大作完成で、何か賞をさしあげたいですね。

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『秀樹杉松』102巻27767号 2019-1-11/hideki-sansho.hatenablog.com #417