新聞広告で浅田次郎 著『母の待つ里』(新潮社2022年1月25日刊)を見つけ、すぐに書店に駆けつけた。「東北・岩手出身の都民」の自分としては、この書名と著者から、すぐにも読みたいと思ったからです。日頃から生まれ故郷「ふるさと」に関心が高いので、「俺にピッタリの本」だと瞬間的に決め込んだ。
本を読むときはいつでも、本の内容を詳しく調べてからにする人もおるでしょうが、私はむしろ(意図的に?)「まず読む派」でしょう。読み進めるにつれて、予想(期待)通りだと納得したり、「あれ?」と思うこともあります。新しい本との出会の緊張感こそ、読書の醍醐味だと思っています。
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さて、本書冒頭の「1 松永徹氏の場合」は、「母の待つ里」の駅頭から始まる。バスを降りて実家に向かう。「じゃじゃ、トオッちゃんではねがか」と声をかけられる。生まれ育った家に40年ぶりに帰宅し、86歳の母に迎えられる。
二人(母と子)はしばらく黙りこくって遅い昼食を摂った。「お名前は」ー「親の名前を訊ぐ倅がどこさおる」ー「俺は40年も勝手気ままに暮らして、この家もおふくろの名前も忘れちまったんだ。教えてくれよ」(p.16-17) 。
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ここで「あれ、おかしいな?」と気がついた。私が予想・期待したような展開ではない。これって若しかして、”架空のふるさと”?いわゆる”フィクション小説”?、、、。
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出版社のPR(表彰帯)には、こう謳われています。
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「家庭も故郷もない還暦世代の3人の男女に舞い込んだ<理想のふるさと>への招待」。
「奇妙だけど魅力的な誘いに半信半疑で向かった先には、かけがいのない<母>との出会いが待っていた」。
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「生まれ育った場所だけが『ふるさと』ですか」。
「あなたを迎えてくれる場所が、ここにある」。
「至高の名作誕生!」。
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◉本書著者・浅田次郎(1951~ )
吉川英治文学新人賞・直木賞・柴田錬三郎賞・中央公論文芸賞・司馬遼太郎賞・吉川英治文学賞・毎日出版文化賞・大佛次郎賞・菊池寛賞・紫綬褒章etc.を受賞。
日本ペンクラブ会長(2011から6年間)。
◉私はこれまでに、浅田次郎さんの以下の小説の読書記を『秀樹杉松』に書きました。
→『流人道中記』
→『ひこばえ』
→『長く高い壁』
→『五郎治殿御始末』
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『母の待つ里』には「方言」も出てくるが、驚いたことに、私の出身県(岩手県)の方言です。その点で共有感に満たされました。他県出身者には「何のことかよく理解できない」面もあるかと思いますが。東京出身の浅田氏が勉強されたんですね!
◉方言例
○きたが、きたが、けえってきたが→ 来たか、来たか、帰ってきたか
○おらはおめのあっぱだじゃ→ 私はお前の母親だ
○なじょした、口に合わねが→ どうした、口に合わないか
○ありがとがんす。だども、やっぱすおしょすいわ→ ありがとございます。だけど、やっぱり恥ずかしい
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<写真> Atelier秀樹
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『秀樹杉松』128巻3887号 2022.2.2 hideki-sansho.hatenablog.com #927