秀樹杉松

祖父と孫、禾と木、松と杉

宮部みゆき『三島屋変調百物語』を読んでいます。あなたは「百物語」のこと、ご存知ですか?

 

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(写真:Atelier秀樹)

 

宮部みゆきは、現代における代表的な女流作家の一人で、以下のような文学賞などを受賞しています。

オール読物推理小説新人賞、日本推理サスペンス大賞、日本推理作家協会賞吉川英治文学新人賞山本周五郎賞日本SF大賞直木三十五賞毎日出版文化賞特別賞、司馬遼太郎賞、芸術選奨文部科学大臣賞(文学部門)、吉川英治文学賞、、、、。

 

私が読んだのは、本所深川ふしぎ草紙(1991刊)、蒲生邸事件(1996)、模倣犯(2001)、小暮写真館(2010)、ソロモンの偽証(2012)、ペテロの葬列(2013)、荒神(2014)、この世の春(2017)、さよならの儀式(2019)、ぐらいで、多くはありません。

 

宮部さんとの出会いは「ソロモンの偽証」「ペテロの葬列」でした。書名に惹かれて?夢中で読んだのがきっかけです。

 

コロナ禍の最中に書店の新刊コーナーで、難しそうな書名の宮部本を見つけました。

『三島屋変調百物語』シリーズ (角川文庫版) です。「たまには変わった本(失礼!)でも読んでみようか」と5冊購入しました。宮部みゆきさんの本だからで、他の作家だったら敬遠したかもしれません。

 

文学部出身者や文学愛好家なら常識でしょうが、不勉強の私は(正直)書名の「百物語」に一瞬「?」で、ピンとこなかったのです。慌てて帰宅後、ネットで「百物語」を検索して、「ああ、なるほど、そうだったか」と得心したのです。

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念のため、「百物語」のネット検索の4例を、一挙に紹介いたします。

 

 

<例1>ウィキペディア(ja.m.wikipedia.org)

日本の伝統的な怪談会のスタイルのひとつである。怪談を100話語り終えると、本物の物の怪が現れるとされる。起源は不明だが、主君に近侍して話し相手を務めた中世の御伽衆に由来するとも、武家の肝試しに始まったともされる。

 

<例2>コトバンクkotobank.jp):デジタル大辞泉

夜、数人が集まって順番に怪談を語り合う遊びろうそくを100本立てておいて、1話終わるごとに1本ずつ消していき、100番目が終わって真っ暗になったとき、化け物が出るとされたもの。

 

<例3>コトバンク:世界大百科事典 第2版

民間に伝わる怪談会たそがれ時を期し、まず一座中に灯を百ともし、こわい話を一つずつしていくたびにひとつずつ灯を消していき、丑(うし)三つ時(今の午前2時~2時半)ころにおよんで百の灯火をみな消した時に、必ず怪異が現れるといい伝えられた。

 

<例4>コトバンク:精選版 日本国語大辞典

夜数人が集まって交代で怪談を語る遊び。一〇〇本の蝋燭、または行灯に一〇〇本の灯心を入れてともし、一つの話が終わるごとに一本ずつ消していき、最後の一本を消したときに妖怪が現れるとされたもの。百咄。《季・夏》

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『三島屋変調百物語』はこれまでに、事始(第1巻)~六之続(第6巻)が発行され、第7巻は雑誌に連載中のようです。1巻から6巻までは、5+4+9+4+5+4=計31話収録なので、100話までこの先しばらく続く大シリーズ。宮部さんのライフワークになるでしょうか。

 

私は今、四之続(第4巻)を読んでいるところです。乗りかけた船ですので、100話まで全部読みたいと思っています。(正直、この種の小説は「大好き」とまではいきませんが、宮部さんの作品だから)。読む方は楽ではないが、宮部さんはスラスラ書いてるかもしれません。

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高橋敏夫氏(文芸評論家・早大教授)は、角川文庫版の本書 三之続(第3巻)所収の「解説」(p.469~475)で、次のように書いておられます。

 

百人物語 人と社会の暗黒領域の華麗かつ果敢な探求者にして、暗黒のただなかにこそ一筋の光をみいだす作家宮部みゆきにとって、これほどぴったりの物語形式はほかにあるまい。(中略)このシリーズは、宮部みゆきによる秀逸な宮部みゆきであり、暗黒領域探求者みずからへの尽きぬ励ましであり、また、読者への温かなメッセージともなっている。(中略)

本書で三島屋変調百物語シリーズにまとまる変異譚はようやく、十八作となった。百物語まであと八十二作。作品数にも変調が及ぶかもしれぬにせよ、このシリーズ、いよいよ、宮部みゆきのライフワークの趣を呈しはじめた――。(p.469~475)

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この小説に収録の個々の話(譚)の内容の紹介はしないとしても、最低限、次の説明は避けられません。

 

 1)書名のトップに出てくる三島屋は、話が語られ聞かれる場所です。三島屋は袋物屋で、筋違橋先の神田三島町の一角にあり、主人の伊兵衛が、笹に袋物を吊るしての振売から一代でつくりあげた店。

 

 2)主人伊兵衛の長兄(川崎宿)の娘17歳の「おちか」が、叔父さんの三島屋(神田三島町)で奉公(行儀見習い)している。長兄から預かった、この「おちか」が、物語の聞き手なのです。

 

 3)川崎宿の実家(旅籠)で「おちか」が残酷な事件(兄弟同然に育った捨て子の松太郎に、許嫁の良介を眼の前で殺された)に遭遇して心を閉ざし、叔父夫婦の元に身を寄せた。

 

 4)「おちか」の心を開くための荒療治として、主人伊兵衛は、三島屋に客を招いて百物語を「おちか」に聞かせることにした。部屋は、伊兵衛が囲碁を楽しむ「黒白の間」(こくびゃくのま)。数人で語り合い、聴き合うあうのではなく、外から三島屋の黒白の間にやってきた一人の語り手が語る物語を、わずか17歳の娘「おちか」一人が聞く、という趣向。

 

 5)三島屋黒白の間における語り・聞き取りは、「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」が決まりなので、門外に出ることはない。だから、語り手も心おきなく語ることができ、聞き役の「おちか」は回を重ねるごとに勉強し、成長し、心も平安に向かっていくようです。

*未読の方には、一読をおすすめいたします。

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<シリーズの構成>

 

宮部みゆき『三島屋変調百物語』

 

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事始   (第1巻) 「おそろし」        (5話)2008年 KADOKAWA

事続 (第2巻)「あんじゅう」 (4話)2010年 中央公論新社

三之続(第3巻)「泣き童子      (9話=6話+3話)2013年 文藝春秋

四之続(第4巻)「三鬼」          (4話)2016年 日本経済新聞出版社 

伍之続(第5巻)「あやかし草紙 」(5話)2018年 KADOKAWA 

 *以上で第一期(27話)完結。2012~2020年)角川文庫版も刊行

六之続(第6巻)「黒武御神火御殿」(4話2019年 毎日新聞出版社刊 )

七之続(第7巻   (雑誌連載中)

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『秀樹杉松』115巻3034号 2020.7.24/ hideki-sansho.hatenablog.com #674