秀樹杉松

祖父と孫、禾と木、松と杉

モリとカケ / キツネとタヌキ

蕎麦(そば) と 饂飩(うどん) 物語             /  Atelier秀樹   

 田舎出身の私は、稲はもとより稗・粟・麦・蕎麦などの雑穀もよく知っている。田植え・稲刈り・稲穂波、麦踏み・麦秋、蕎麦の花、そして大きくて黒っぽい稗の穂…。こうした代表的な農村風景は、今でも懐かしく思い出される。

 <稗飯を食べました>

 農村なので食糧は自給自足だった。戦時中はコメは「供出」(強制的に政府が買い上げ)したので、農民はオコボレの米と稗・粟などの雑穀を食べた。ご飯は米と稗(または麦)を炊き合わせたものが多く、米だけの「白いマンマ」には滅多にありつけなかった。完全な稗飯か、米が少し混じった稗飯なので、お握りもできず、弁当だとすぐ稗飯だとわかるので、生徒も学校へ弁当やお握り持参はしなかった。

 

 <学校時代の昼食>

 小学校(当時は国民学校)の頃は、午前の授業が終わると直ぐに走って我が家に駆けつけた。農民は終日農作業に従事するので、昼飯は田畑で摂る。だから子供が昼間帰宅しても、家は空っぽで誰もいなかった。味噌汁・オカズがないので、冷えた稗飯に水をかけて胃に流し込むだけで、すぐに走って学校に舞い戻り、午後の授業にやっと間に合った。さすがに毎日がそうとも限らなかったが、戦時中の苦労は都会や疎開先だけでなく、農村も大変だったのです。

 <外食券の時代> 

 思い出話のついでにもう一つ。食べ物は自給自足だったので、外食の必要はなく、食堂や蕎麦屋・饂飩屋はなかった東京に出てきた時に初めて外食した。「戦争を知らない」世代は聞いたこともないでしょうが、食糧事情の逼迫から戦中戦後(正確には昭和16年からで、昭和44年廃止)東京など六大都市には「米穀通帳」制が実施され、「米飯外食券」の制度もできたのです。主食外食者は「米穀通帳」を提示して外食券の交付をうけ、これを「外食券食堂」に渡して、初めてご飯にありつけたのです。東京で初めて食堂に入り「外食券」の必要を知って驚いた。

 <もりかけ下さい> 

 さて、外食をしていると飯代が嵩むのでウドンやソバも食べた。蕎麦屋に入ったら、木札か紙に書かれた値段表が目についた。その中に「もり かけ」と2行に書かれたメニューがあり、よく見たら一番の廉価だ。これにしようと即断、「もりかけ下さい」と注文したら「どちらですか」と問われた。「どっちって、あれですよ、もりかけですよ」と返したら「じゃ両方ですか」。こんな笑えない珍問答の末に、モリとカケは違うもので、値段が同じだからまとめて書かれているのだ、とやっとわかったのです。

 蕎麦屋の前通るたびに....

 「閑話休題」といきたいが、以上の話は閑話では片付けられない思い出です。その後は、蕎麦屋に入るたびに、いや店の前を通りかかるごとに、今でもこの「もりかけ下さい物語」を思い出します。都会生まれ・都会育ちの人や若い人には到底信じられない「挿話」でしょうが、そういう時代や、そういう人(私)も居たことをお笑い下さい。

 <モリとカケ>

 さて、今年は「もり・かけ」が世の中を騒がした(もちろん現在でも)。いうまでもなく、M学園、K学園に関わる問題であり、「もり・かけ問題」と一括総称される。この件そのものはこの際さて措き、上記のような思い出を持つ私としては、政治問題とは別に「もり・かけ」に関心を持った。モリとカケは、ソバ(ウドン)に汁をかけるかかけないか、最近流行りだしたラーメンと「つけソバ」の違いみたいなもの。つまり、モリとカケは密接な関係にある。

 <もり・かけ問題>

ところが、政治問題化している「もり・かけ」の両学園に直接の関係がないだろうが、某国の総理や奥方が関与したらしいということで、同類の事案として政治問題化した。選りに選って同時に(前後して)浮上したのが不思議だが、よく考察すると、あるいは同根なのかもしれない。本稿はこの「もり・かけ」が主題ではないので、この辺にとどめます。

 <キツネとタヌキ>

 では何が今日の主題か。前号の「最近・動物学入門」のトップに、<狐狸妖怪>として、塩梅辛酸騒狸恋気揺狐、を掲げました。そしてコメントとして「なるほど狐狸妖怪の世界ですか」と書きました。何のことかお分かりになりましたか?前号の主題は他に「猛獣」「猛禽類」のことがあったので、狐狸妖怪(こりようかい)は付け足しのつもりでした。狐狸とはキツネとタヌキのことです。モリとカケと同じように、やはりソバやウドンに関係している。

 <もり・かけ、キツネ・タヌキも蕎麦・饂飩>

 世の中は本当に不思議です。「もり・かけ」が同根の政治問題であり、「きつね・たぬき」は狐狸妖怪と恐れられと同時に、キツネうどん(そば)、タヌキそば(うどん)として庶民の好物とされる。つまるところ、「もり・かけ」も「きつね・たぬき」も、「蕎麦・麦」を素材にした美味しい(おそらく嫌いな人は皆無?)健康食品。今年の流行語大賞に「もり・かけ」は入るでしょうが、私としては「きつね・たぬき」も入れてもらいたいが、そうはならないでしょう。そうなるようだったら、「狐狸妖怪」の蔓延(はびこり)はないでしょうから。

   

                                                         (秀樹杉松 87巻/2462号)2017.10.21    #102