秀樹杉松

祖父と孫、禾と木、松と杉

葉室麟『天翔ける』(あまかける)を読む~松平春嶽(越前国福井藩主)/横井小楠/橋本左内/中根靱負(雪江)/由利公正(三岡八郎)/坂本龍馬/島津斉彬/山内容堂/伊達宗城/一橋慶喜/徳川斉昭/井伊直弼/勝海舟/西郷隆盛/大久保利通/松平容保、、、。解説=朝井まかて(直木賞作家)

 

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幕末から明治維新にかけては、多くの歴史上の人物が登場する。四賢侯として知られる松平春嶽島津斉彬山内容堂伊達宗城維新三傑と称される西郷隆盛大久保利通木戸孝允桂小五郎)。他にももちろん、坂本龍馬勝海舟(麟太郎)・徳川斉昭井伊直弼一橋慶喜松平容保伊藤博文などなど枚挙にいとまがない。

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四賢侯」の一人とされる松平春嶽を主人公にした葉室麟『天翔ける』(あまかける)を読んで、深い感動を覚えました。葉室麟さんは私の大好きな作家です。3年前の本ブログ<秀樹杉松>の、2018年3月17日号の冒頭を引用します。

「名作を次々に発表した葉室麟(1951-2017)は、昨年暮れの2017年12月23日に逝去されました。訃報に接した私は、直後から今日まで図書館から借り出して既に35冊以上を読み、幾つかについてはこの『秀樹杉松』で取り上げました。3カ月で35冊読んだことに、自分でも驚いています。しかも、全部が長編でした。それだけ私は感動し、感銘を受けたのです」

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こんかい久しぶりに、葉室さんの作品を読みました

葉室麟『天翔ける』(角川文庫版、2021.2.25刊。単行本は2017.12刊)

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朝井まかて本書の解説者

 

本書の解説者で作家の「朝井まかて」さんに、わたしは初めてお目にかかりました。朝井さんは(わたしが知らなかっただけ)62歳の立派な作家で、直木賞をはじめ、織田作之助賞・中山義秀文学賞舟橋聖一文学賞中央公論文芸賞司馬遼太郎賞・親鸞賞・芸術選奨文部科学大臣などを受賞しています。

 

朝井さんの「解説」p.331によれば、『天翔ける』の初版発行日は2017年12月26日で、作者の葉室さんが亡くなったのは、その三日前の12月23日。見本が作者の手許に届くのは発行日の数週間前が概ねだから、本作は生前の葉室さんの元に届いた最後の作品ということになる、そうです。

 

 

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朝井まかて「名解説」

 

朝井まかて直木賞作家)さんの解説は、分かりやすく、しかも本質をついているように思います。本書を読了した私も全く同感で、私には稀に見る名解説だと思いますので、少し紹介します。.

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「淡々とした筆致で、”歴史の証言”を積み重ねた小説だ。

主人公は越前の松平春嶽島津斉彬(薩摩)・山内容堂(土佐)・伊達宗城宇和島)と共に「四賢侯」と謳われ、大政奉還」の実現に功多く、維新政府に参画した数少ない大名の一人でもある。にもかかわらず、歴史小説では主人公に据えられることの少ない人物だ」(p.323)

「ではなぜ、葉室麟は春嶽を書かねばならないと思ったのか

まず、幕末から明治にかけての歴史を俯瞰するのに春嶽が最も偏りのない人物であったことが挙げられるだろう。そしてもう一つ。春嶽は歴史の敗者とは位置づけられないけれども、開国論の先駆者として歩んだのはやはり茨の道であった。(同上)

”私”を捨て、民を本とする”公”を立て通した春嶽がいたからこそ明治維新はフランスやロシア、中国の如き激烈な革命ではなく、大政奉還という「政権交代」に留まったのだ。戊辰戦争西南戦争は起きたけれども、長い歴史を見渡せば緩やかな回天をを成し遂げたといえよう」(p.329)

(注)回天=天下の形勢(時勢)を一変させること。

 

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葉室麟この政権交代を東洋哲学に基づく日本独特の禅譲と、インタビューで表現している。ゆえに春嶽の政治人生と歴史的意義を現代に伝えておかなければならないと決意して、『天翔ける』を寄稿したのではないだろうか」(同上)

(注)禅譲=地位を平和裡に譲ること。

葉室麟歴史観は膨大な知に基づく冷静な分析によって透徹しているが、その根底には一人ひとりへの深い情が常に流れている。春嶽の『天翔ける』と『大獄 西郷青嵐賦』を併せ読めば、まるで漢詩の対句のように響き合う。

幕末から維新という歴史への、葉室麟の挽歌だ」(p.330)

 

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(注)以上の「解説」を読み、朝井まかてさんご自身の小説を読みたくなり、手許にはすでに2冊用意してあります。「まかて」ってまさか「出まかせ」ではないだろうと、Wikipedia調べたら「ペンネームは沖縄出身の祖母・新里マカテの名に由来する」そうです。

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写真:Atelier秀樹

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『秀樹杉松』121巻3750号 2021.3.13/ hideki-sansho.hatenablog.com #790