秀樹杉松

祖父と孫、禾と木、松と杉

朝井まかて『恋歌』を読み、感動を覚え勉強になりました〜樋口一葉の師・中島歌子を描く〜大矢博子氏の「解説」も立派!

f:id:hideki-sansho:20210320225933j:plain

f:id:hideki-sansho:20210320225709j:plain

 

本ブログ《秀樹杉松》3 月13日号に、<葉室麟『天翔ける』を読む>を投稿しました。その中で、巻末掲載の朝井まかて氏の「解説」に注目し、以下のように書きました。

朝井まかて直木賞作家)さんの解説は、分かりやすく、しかも本質をついているように思います。本書を読了した私も全く同感で、私には稀に見る名解説だと思います。

「解説」を読み、朝井まかてさんご自身の小説を読みたくなり、手許にはすでに2冊用意してあります。

………………………………

 

f:id:hideki-sansho:20210320230446j:plain

f:id:hideki-sansho:20210320225842j:plain

 

そこで早速に、朝井まかて『恋歌』(2013年刊)を読みました。『恋歌』は翌年の2014年に直木賞を受賞した作品で、講談社文庫版を読みました。

 

普通の歴史小説推理小説なら一気に読み上げるのですが、いつもよりは流石に日時がかかりました。”難しい”のではなく、朝井まかてさんの作品を初めて読むという緊張感?もあるが、先にそのまま進むのではなく、途中で考えたり調べたりの時間を要した。それだけの価値ある本書だったのでしょう。

 

読了してすぐ、巻末の「解説」に目を通した。読み終わった自分の感動、感想がどう書かれているかを知りたかったから。大矢博子さんの「解説」には、たいへん驚きました。全く同感の内容で、しかも(私などにはとても表現できない)的確な文章で書かれている!

.............................................

私の下手な文章は一切抜きにして、以下、大矢博子氏の「解説」の一部を引用させていただきます。内容はもとより、文章も素晴らしいですね。どうぞお読みください。そして、朝井まかて氏の『恋歌』にお進みください。

………………………………………

 

f:id:hideki-sansho:20210320230250j:plain

 

朝井まかて『恋歌』への解説 by 大矢博子」 から

「幕末の小説を読むとき、そこに描かれるのは坂本龍馬新撰組、あるいは吉田松陰といった綺羅星の如き男たちの、志を懸けた戦いの様子であることが多い.

しかし幕末の動乱は彼らだけのものではない。ただ普通に、ささやかな日々を暮らしているだけの女たちをも容赦なく、その渦の中に飲み込んだのである。」(p.371)

「本書は、明治期の歌人・中島歌子を主人公に、幕末の動乱に否応なく巻き込まれた女性の喪失と再生を描いた力作だ。また、女たちだけでなく、歴史の間に消えていった名もなき人々の信念と矜持を高らかに謳い上げるとともに、争いの連鎖が生む悲劇を切々と綴った物語でもある。」(p.372)

「読むのが辛くて、やりきれない。なのに読むのをやめられない。」(p.373)

「本書が第一五〇回直木賞を受賞した際、選考委員の浅田次郎は「幕末期の水戸藩といういわば時代小説の不可触領域に踏み込んだ、勇気ある作品」と讃えた。」(p.375~376)

「不思議に思ったことはないだろうか。水戸藩といえば古くからの尊皇派、桜田門外の変を起こし幕末維新の火蓋を切った藩である。ところが明治維新政府の顔ぶれの中に、水戸藩士の名前は思い浮かばない。」(p.376)

なぜ水戸が表舞台から消えてしまったのか。その答えが本書にある薩長のように志を遂げたわけでもなく、会津のように戦って散ったわけでもない。他の藩が新政府と幕府に分かれて戦っているとき、水戸は藩の中で仲違いをしていた。藩内が敵味方に分かれ、殺し合い、維新後には中央政府に送れるような人材が残っていなかったのだ。」(p.376)

「男が志に生き志に死ぬ、と先に書いたが、実際には水戸の男たちはその志以前のところで斃れているのだ。ドラマにするには、悲惨すぎる歴史。小説にするには、救いがない歴史。だから水戸は難しい、のである。

それを朝井まかては敢えてテーマに選んだ。なぜか。」(p.376)

歌子が門下生に伝えた ー という物語を描くことで、朝井まかては読者に「伝えて」いるのだ。

 

歌子が明治の娘たちに伝えたかった歴史は、そのまま今につながっているのだということを。

書は、構造そのものに著者の思いが込められているのである。」(p.377~378)

…………………………

葉室麟『天翔ける』への朝井まかてさんの「解説」

朝井まかて『恋歌』と、その作品に対する大矢博子さんの解説

朝井さん、大矢さんという二人の女性の作品や解説を読んで、これこそ”女性活躍”だと誇りに思いました。それにしても、お二人のお名前すら知らなかったのは、情けない限りです。

......................................

写真:Atelier秀樹

…………………………

『秀樹杉松』121巻3752号 2021.3.20/ hideki-sansho.hatenablog.com #792