南部叢書第一冊「奥々風土記」に見える峠と坂 ~坂研究メモNo.17:岩手県の坂(13)〜「秀樹杉松」3800号=ブログ投稿840号 記念
本稿は、『秀樹杉松』3800号=ブログ投稿840号に当たります。
岩手県の坂を調べるために、新旧いろんな資料に当たっていますが、その一つに
「南部叢書」(10冊+索引) があります。特に、第一冊「奥々風土記」は、南部藩主南部利直に邦内風土記の編纂を命ぜられた江刺恒久が筆を執ったもので、旧南部藩の全領を網羅した浩瀚な(註=書物の分量が多い)著書である。(本書「解題」)
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本書の巻五「閉伊郡」には、以下のような「峠」と「坂」が記されています。
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五輪峠、仙人峠、石塚峠、鳥谷坂、御廟坂、四十八坂、ブナ峠、石峠、大峠、小峠、級坂、有藝峠、待敷坂、女遊坂、橡木坂、二段野坂、早坂峠、松前坂、、、
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難読の坂名、峠名がいくつかあります。
1)「女遊坂」は、既出のように「おなつへ坂」「おなッぺ坂」と読みます。(アイヌ語の発音に似た読みの漢字を当てはめたもので、「女遊び」とは関係なく、川の末端が切れるもの、の意)
<備考>
本書では「女遊坂」となっており、これまでそう書いてきましたが、「岩手三陸・近世浜街道を往く」(kinsei-iwate-hamakaidou.jp)では、「女遊戸坂」となっています。「女遊坂」は「女遊戸坂」かも知れません。海水浴場も「女遊戸海水浴場」ですから。
2)「ブナ峠」のブナは、普通は漢字の「山毛欅」「橅」ですが、本書では「掬」の手編を木編にした漢字が使われています。(私が今使っているパソコンでは出てこない漢字なので、カタカナをあてました)。
3) 手元の「角川漢和中辞典」「学研漢和大字典」のどちらにも「掬」の手編が木編の漢字は収容されていません(索引のブナにも出ていない)。「国語大辞典」(小学館)の「ぶな」にも「橅、山毛欅」の2つしか出てきません。
4) ところが、新装改訂「新潮国語辞典 現代語・古語」には、三つがちゃんと収録されています。
5) ついでですから、Wikipedia (ja.m.wikipedia)で調べてみました。3つどころか、5つの漢字が出てきました。
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山毛欅、橅、例の「掬」の木編、「柏」の右側が白ではなく臼、橿。
中国語で「山毛欅」は本種ではなく、中国ブナの一種を指す。「橅」は近年作られた和製漢字で、一般に(日本)ブナの意味に使われている。「掬の木編」も中国ではブナの意味は全くなく、檜の意味ならあるが、日本ではブナの意味に使われることがある。(ウィキペディア)
6)「級坂」は、「急坂」の誤植かと思いきや、さにあらず。「ウタマノ坂」と振り仮名されている。「うたま」で検索したら、うた-まい【歌舞】、うたまい-どころ【歌舞所】=奈良時代ごろの歌舞をつかさどった役所、と出てきましたが、、、。
7) アイヌ語かと思って調べたら、苫小牧市にウトナイ湖があり、アイヌ語のウトナイ(小さな川の流れの集まるところ)が由来とあります。ウタマとウトナイは違いますが、少し似ていますね。
8) すでに紹介したように、女遊戸坂(オナッペ坂)はアイヌ語のオナツペ(川の末端の方が切れるもの)で、ウトナイも川のことなので、共通性を感じますね。(級坂は本書のp.59に、女遊坂はp.60に載っています。近くに川があったんでしょうか?
9)「五輪峠」は、もちろんオリンピックに関係はないが、ウィキペディアで調べたら、次のように出てきました。
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五輪峠は日本に複数ある峠名。(岩手県、新潟県、鳥取県の五輪峠を例示)
五輪峠(岩手県)ー 岩手県奥州市と遠野市の境にある峠。峠名は、道脇に「五輪塔」が建っていることから。(ja.m.wikipedia.org)
10) 「四十八坂」は、山田町の観光情報サイトによると、「その昔、この場所は交通の難所といわれ、曲がりくねった坂が続いたことからこの名がつきました。夏の夜にはイカ漁の漁火が見えます」(yamada-kankou.jp)
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写真:Atelier秀樹
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『秀樹杉松』124巻3800号 2021.7.6/ hideki-sansho.hatenablog.com #840