浅田次郎『長く高い壁 The Great Wall』(角川文庫) を読む。~昭和13年(1938)の中国大陸、万里の長城・張飛嶺が舞台。浅田次郎初の戦場ミステリー!
浅田次郎は私の大好きな作家で、これまで『蒼穹の昴』『壬生義士伝』『鉄道員』『流人道中記』『神座す山の物語』を読んだ。浅田次郎は直木賞、吉川英治文学新人賞、柴田錬三郎賞、中央公論文芸賞、司馬遼太郎賞、吉川英治文学賞、大佛次郎賞、菊池寛賞など数々の賞を受賞し、2015年には紫綬褒賞を受賞。
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書店の新刊書コーナーで、
浅田次郎著『長く高い壁』(角川文庫)を見つけた。正直この本は知らなかった(単行本が3年前に出ている、というのに)。書名の『長く高い壁』って何だろう?と一瞬思ったが、英語名The Great Wallも併記されているので固有名詞だろう。となれば、小説の舞台が中国のようなので、「万里の長城」に違いない。
私は今回この本を初めて知ったので、予備知識や先入観は全くのゼロでした。加えて、本作品の内容や構成の特徴もあり、1回読んだだけでは完全に理解しきれず、最初から最後まで時間をかけて再読し、やっと「読んだ」「判った」と納得しました。結局この読書メモは、本書の表紙カバーや出版社、書評などの一部引用にとどめました。
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本書巻末に、五味渕典嗣氏による「解説」が出ていますので、ほんの一部を紹介します。
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◉作者が初めて手がけた戦場ミステリー小説(p.312)
◉小説の舞台は、1938年(昭和13年)の中国大陸。
前年7月に盧溝橋で火がついた戦争は一挙に中国各地に飛び火。開戦直後に北京と天津を占領した日本軍は、1937年上海と南京を占領。1938年春には徐州、秋には中部の武漢と南部の広東を目指した大規模な軍事作戦を展開。(p.313)
◉日本の軍と政府が文芸春秋社の菊池寛に声をかけ、文学者たちを国費で戦地に派遣する「従軍ペン部隊」を作らせたのは、この武漢作戦のとき。(p.313)
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本書冒頭にこの小説の主な登場人物が掲載されているが、頻繁に出てくるのは次の3人。
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小柳逸馬(当代きっての流行探偵作家、従軍作家として北京へ派遣される)
川津中尉(北支方面軍司令部の検閲班長。東京帝大仏文科卒)
小田島八郎(十四年間、憲兵一筋の曹長。二等兵からの叩き上げ)
<編注>
作家(小柳逸馬)の派遣には、検閲官(川津中尉)も同行させたんですね。従軍作家の金科玉条とするのは、内務省警保局による出版警察時報第一〇七号。戦争報道に関する「新聞掲載禁止事項ノ標準」を示した指導要項
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主な登場人物の次には、「1936年当時における軍隊の階級」の一覧が出ている。
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兵卒(二等兵、一等兵、上等兵)、下士官(伍長、軍曹、曹長)、准士官(准尉)、尉官(少尉、中尉、大尉)、佐官(少佐、中佐、大佐)、将官(少将、中将、大将)。なお、 尉官・佐官・将官の3官は将校とも呼ばれた。
<編注1>
士官学校などにおいて、用兵などの初級士官教育を受けた軍人で、階級が少尉以上の武官を「士官」(commissioned officer)と呼ぶ。将校ともいう。なお、1868年の「officer」の日本語訳は士官であったが、1887年ごろから将校に変わった。下士官の上となる。(ja.m.wikipedia).
<編注2>
子どもの頃、集落の若者が「死んで帰れ!」と励まされて出征し、しばらくすると白箱で無言の帰還をした。墓碑には、上等兵、軍曹、曹長など、故人の「兵隊の位」も添えられていた。田舎の青年だったので、兵卒や下士官ばかりで士官(将校)は見当たりませんでした。
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本書の冒頭の文章を紹介します。
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北京雑感(第一回)小柳逸馬
従軍ペン部隊を志願すること多年、そのつど探偵作家等は任務にふさわしからずと却けられて来たが、念願叶って出征の運びとなった。(中略)皇軍占領下の北京にてペンの初陣を飾る次第となった」(本書p.7)
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本書の作品紹介・書評を、ちょっとだけネットで見てみましょう。
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◉万里の長城を舞台に、従軍作家が日本軍の闇に挑む、浅田次郎作品初の戦場ミステリー(カドブン kadobun.jp)
◉日中戦を捉えなおす衝撃ミステリー(bookbanng.jp)
◉ここは戦場か、それとも殺人現場かーー。従軍作家が日本軍の闇に挑む。日中戦争中の万里の長城。探偵役を命じられた従軍作家が辿り着く驚愕の真相とは?浅田作品初の戦場ミステリー。(amazon.co.jp)
◉軍の論理では割り切れぬ、人の心を従軍記者が解き明かす。戦場の人間ドラマ。
1938年秋。従軍作家として北京に派遣されていた探偵小説家の小柳逸馬は、軍からの突然の要請で前線へ向かう。検閲班長・川津中尉と赴いた先は、万里の長城・張飛嶺。そこでは分隊10名が全員死亡、しかも戦死ではないらしいという不可解な事件が起きていた。(kadokawa.co.jp)
◉久々の浅田次郎。彼には珍しく推理小説である。支那に駐屯する1000人の独立歩兵大隊が新作戦のために移動。匪賊対策のために残されたのは僅か30名。そのうち一個分隊、10名が殺される。果たして共匪による犯罪なのか・・・(同上)
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写真:Atelier秀樹
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『秀樹杉松』122巻3777号 2021.5.9/ hideki-sansho.hatenablog.com #818